全文公開【田原総一朗さんに聞く】曖昧さの中の平和と自由

月刊『地平』編集部
2026/07/05
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2026年8月号特集「教育と平和」

憲法を変える必要はない

  ――いま高市政権のもとで、国旗損壊法やスパイ防止法の制定、安保三文書の改定、さらに憲法を変える動きも加速しています。こうした動きをどう捉えていますか。(聞き手=本誌編集部)

田原総一朗 戦後一度も変えられることのなかった憲法を変えるというのは、安倍さんが何としてもやりたかったことだけど、抵抗が強くて、できなかった。それで2015年に安保法制をつくって、アメリカとの集団的自衛権を認めるという形で、実質的な改憲をした。それから10年にわたってその路線を進めてきて、いまは形式的にも変えようという段階に入りつつある。

 だけど、いま憲法を変える必要性がどこにあるのか。現行のままでいけるものは変えなくていい、それが基本だ。国家の基本となる憲法に、そう軽々しく手を付けることはすべきではない。法律で対応できるものはそこで対応するのが原則で、特にいま議論されている緊急事態条項なんて、本当に憲法を変えてつくらなくてはいけないものなのか。どうしても法律だけでは対処できない根拠があるというのであれば、主権者である国民多数が納得できるように、詳らかに説明しないといけない。

 自衛隊の位置づけの問題も同じことがいえる。「現実に合わせる」みたいなことを言っているけれど、そもそも憲法というのはあるべき姿を示したものなんだから、現実に合わせるという発想にはなじまない。確かに、現在の憲法は自衛隊を認めているのか認めていないのかわからない。でも、そこにこそ、なぜ戦後の日本が戦争をせずに平和でやってこられたのか、というヒントがある。それを軍隊だと割り切ってしまえば、曖昧さの中に含まれていた交渉や調整の余地が失われてしまう。それは危ない。

 憲法が作られた過程を見れば、アメリカに押し付けられた側面は間違いなくある。だから、かつて私も改憲を認めるべきだと考えていた時期もあったんだけど、いまは現行の憲法に価値があると思う。もう80年、この憲法のもとで議論をたたかわせながら、結果として戦争をしないまま今日に至っている。この経験を生かさないといけないよね。もしこの憲法がもたらしている曖昧さを改憲によってなくしてしまうというなら、それは国民が断固反対しないといけない。

 あらためて言うけれど、改憲には反対。昔は、押し付けられたところは変える検討をする価値があると言ってきたけど、もう憲法を変える必要なんてない。

  ――これまで日本は、中国とは緊張関係の上にバランスをとりながら外交を行なってきました。ここにきて高市政権は、これまで以上にアメリカのトランプ政権に近寄り、中国への挑発的な言動も目立っているようにみえます。

田原 選挙をしない国である中国は、民主主義国家である日本とは、体制が基本的に違う。だから多少、緊張関係があってもいいんだけど、均衡が崩れて、再び日本と中国が戦争になるということは避けないといけない。

 そのためにも、日本の曖昧さとかいいかげんさは大事。杓子定規な対応ではなく、相手の言うことにも耳を傾けながら柔軟に対応する。自民党がかつてそうだったように、アメリカに近い人間もいれば、中国に近い人間もいる。そういう中で、全体として「いい加減」に落ち着かせる。石破さんはそういう意味で、いいかげんだった。高市さんは、あんまり付き合いがないんだけど、そのあたりが足りないね。そこは本人に会えたら伝えたいところ。このままだと戦争に近づいていってしまうからね。

戦略的ないいかげんさこそ戦後の知恵

  ――日の丸を損壊する行為に罰則をつけたり、平和教育を萎縮させたりするような動きがあります。

田原 政治家はそういうことやりたがる。だけど、国民は嫌がるよね。これは国民を守るための法律じゃないから。国民を守るための法整備は重要だが、国民の自由や表現を制限する法律や規制はできるだけ慎重にならないと。

 僕の世代は特にそういうことには敏感。昔、知花昌一さんが沖縄で開催された国民体育大会で、会場に掲げられた日の丸を引きずりおろして火をつけた。沖縄は、戦争で多くの人の命が失われて、戦後は米軍の施政下に置かれた。そういう沖縄で生まれ育った知花さんの日本への怒りがそうさせた。執行猶予つきの有罪判決だったけど、政府は国民の中にあるそういう思いを理解しないといけない。

 一水会代表の木村三浩さんは、日の丸を燃やすなんてとんでもないと思ってる人だけど、知花さんと直接、知花さんの経験してきたことの痛みはわかる、それでも国旗を燃やすのはよくないと、何度も会って議論したんだよ。それで、知花さんはもう燃やさないと言った。政府はこういう努力が足りない。罰則をつけて言論を封じる。それはよくない。反感を買うだけだ。「君が代」を国歌にしようという法律のときも、小渕さんは罰則はもうけなかった。戦時中の雰囲気を知っていたから。やはり日の丸の扱い方も、「戦略的いい加減さ」で対応すべきなんだ。

 このあたりは、昔の自民党と今の自民党ではまるで違うね。戦争の怖さを知っている世代は、この問題には右も左もない。その思いが薄らいできているけど、だからこそ、メディアはどんどん反対を言えばいい。

 戦争は嫌だよ。飢えるし、人が死ぬ。いいことは一つもない。黒柳徹子さんなんかも同じことを言っていたね。

 人と人が集まって物事を決めようとすれば、意見が対立するのはしかたない。生きてたら、どうしたって避けられない。でも、それが戦争にならないようにするのが知恵であり、政治の役割。もちろん、外交関係なんだから、利害が異なるところで揉めたり、議論になったりするのは当たり前だ。でも、相手を叩くのはよくない。戦争にさえならなきゃ、多少揉める程度ならいい。そう思うね。

 ――ありがとうございました。

『地平』編集部

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