【連載】日本の公安警察2025(第4回)権限を拡大する治安立法

青木 理(フリージャーナリスト)
2025/06/05

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「反共」から「外事」へ

 自らのレゾンデートルを従来の「反共」から「外事」などへとシフトさせてきた公安警察組織は、具体的に以後どのような活動を水面下で繰り広げてきたのか。

 はしなくもその一端を露呈させる“大事件”が2010年の10月末に巻き起こっている。公安警察組織において最大の実働部隊というべき警視庁公安部の、新設されて間もない外事三課が、大量の内部文書をインターネット上へと流出させてしまったことが発覚したのである。

 本題へと分け入っていく前に、まずは簡単におさらいをしておきたい。戦後一貫して「反共」を最大のレゾンデートルとして組織を肥大化させてきた公安警察は、冷戦体制の終焉などに伴ってその意義を喪失し、さらには捜査を主導した警察庁長官銃撃事件を迷宮入りさせてしまうといった失態も加わり、2000年代に入ると警視庁公安部でも主要部門の人員が削減される局面に沈滞していた。

 それを“反転”させる契機としたのが2001年に米国で起きた、いわゆる9・11事件―米中枢同時多発テロであった。ネオコンに侵食された当時の米政権がアフガン、イラクへの侵攻戦に乗り出し、「対テロ戦争」を呼号した国際情勢を受け、翌2002年10月には「国際テロ対策」を担務と謳う新組織が警視庁公安部で産声をあげた。外事三課である。

 ちなみに以後、「一強」政権などが「経済安保」などの旗を盛んに振り、これらを梃子とする形で公安部の外事部門はさらなる再編・拡充が図られる。それまで外事二課が担務としていた中国、北朝鮮のうち、後者を担務とする部門が分離・独立して外事三課が誕生し、「国際テロ対策」を担う三課は四課へと横滑りした。2021年の出来事であり、従来は二課態勢だった公安部の外事部門は四課態勢に大幅拡充されている。

旧態依然の活動内容

 さて、おさらいはこの程度とし、2010年10月末に当時の外事三課がネット上に大量流出させた文書へと話を戻す。

青木 理

(あおき・おさむ)フリージャーナリスト。1966年長野県生まれ。1990年共同通信社に入社。公安担当記者としてオウム真理教事件などを取材。著書に『日本の公安警察』(講談社現代新書)、『時代の反逆者たち』(河出書房新社)など。

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