核兵器をなくす――それが日本の安全保障

一般社団法人核兵器をなくす日本キャンペーン
2026/03/25


※この提言は、高市首相が国家安全保障戦略を含む安保三文書を二〇二六年内に改定すると表明したことを受けて、国会議員や政策担当者に向けて作られたものである。この文書では、核兵器の問題に焦点を当て、核軍縮を通じて国際および日本の安全保障を高めるための提言を示すことを主眼としている。詳細はhttps://nuclearabolitionjpn.com/ (連絡先:info@nuclearabolitionjpn.com)。


はじめに

 ロシアによるウクライナ侵略、イスラエルによるガザ侵攻、米国によるイラン攻撃やベネズエラ軍事作戦など、核を保有する大国による力による一方的な現状変更が続いている。第二次世界大戦の反省のうえに生まれた、国連憲章などの国際法に基づく国際秩序が揺らいでいる。

 「法の支配」を求めることは単なる理想主義ではない。それは国家間の対立を武力ではなく外交と対話で解決するという現実的な選択であり、かつそれによって国際関係の安定化を図る取り組みである。いま求められているのは「法の支配」を諦めることではなく、それを強化する道筋を見出すことである。大国による「力の支配」ではなく、平和を求める国家と市民のグローバル・マジョリティの連帯こそが必要だ。

 日本政府は、二〇二二年の国家安全保障戦略において「国際法に基づく国際秩序を維持・擁護する」ことを「我が国の国益」として掲げ、それを実現する手段として「第一に外交力」としている。ならば今こそ日本は、国際社会において多国間主義と国際法の遵守を主導すべきである。そのような取り組みは、日本国憲法前文の精神と第9条における平和主義とも完全に合致する。

 今日の情勢に関して、アントニオ・グテーレス国連事務総長は「核戦争のリスクが過去数十年で最高レベルにまで悪化している」(二〇二四年三月一八日、国連安保理)と警告している。この核の危機を乗り越えるために、対話と協力を通じた「核軍縮・不拡散の強化」は最優先の安全保障課題である。とりわけ、核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約、核兵器禁止条約(TPNW)など、多国間主義に基づく核軍縮・不拡散を強化する必要がある。それと同時に、国連でのグローバルなレベルだけでなく、地域レベルでの核軍縮の取り組みも進めるべきである。

 日本の現在の国家安全保障戦略は「軍備管理・軍縮・不拡散」について、各国との協力や連携の強化、気候変動対策、政府開発援助(ODA)、人的交流促進などと並び、「危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境」をつくる取り組みだと位置づけている。こうした観点からも、日本は軍縮外交を強化することがこれまで以上に急務である。それは、日本の国家安全保障を高めることにもつながる。核軍縮が日本の安全保障を高めるという観点を踏まえて、私たちは、安保三文書の改定にあたり以下の四つを国家安全保障戦略で掲げることを提言する。

提言1

核抑止のリスクを直視し、「核軍縮は安全保障の手段」と位置づける

 国際法違反の侵略や武力紛争が拡大するなか、世界各地では「核には核を」と核抑止力を求める声が大きくなっている。日本でも米国の拡大核抑止の強化が進められてきたが、近年では「米国との核共有を検討すべき」という主張や「核保有」論まで出てきている。

 しかし、核抑止が必ず成功するという保証はない。それはいつでも破綻しうる。歴史的に見れば、政治指導者の誤認や核兵器システムの事故によって人類は何度も核戦争の手前を経験してきた。これまで私たちが核戦争を回避できたことは単に幸運だったに過ぎず、グテーレス国連事務総長が述べているとおり「運は戦略ではない」(二〇二二年八月一日、NPT再検討会議)。

 さらに、今や核保有国は武力侵攻の当事国となり、自らの戦争を有利に進めるためには核の威嚇を用いることすらもいとわない。核兵器はもはや抑止のツールというよりも、むしろ侵略と強要の道具へと変質してきているのである。また、昨年五月のインド・パキスタン軍事衝突にもみられるように、核兵器は必ずしも通常兵器による戦争を抑止しない。しかし、ひとたび核保有国による戦争が始まれば、政治指導者は戦況を打開するために実際に核を使いかねない。

 また、一方における抑止力の強化は、他方による抑止強化を招き、軍備増強のスパイラルをもたらす。この負の連鎖から抜け出すためには、抑止一辺倒ではなく、どれだけ厳しい安全保障環境にあっても、国家間の緊張を緩和し、軍備管理や軍縮に結実させていく対話が必要である。

 核抑止には、以上のような「副作用」があるからこそ、日本政府が主催した「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議は「全ての国は、核兵器への依存から脱却するために努力し続けなければならない。核抑止が安全保障の最終的な形態であるとこれまで示されたことはなく、またこれからもそうあってはならない」と提言している(二〇二五年三月三一日)。

 すなわち、核軍縮は理想論ではない。核使用のリスクを減らし、核軍拡を止め、核兵器を削減することで国家の安全保障を向上させる手段なのである。そこには、核兵器への依存を減らすことで核リスクを下げる「核の先制不使用」といった核の役割低減の取り組みや、他国との外交交渉を通じて核兵器そのものを削減していく軍縮条約の締結などが含まれる。

 したがって、国家安全保障戦略では、核抑止への依存を減らし、核兵器を削減する「核軍縮の取り組み」を安全保障の手段として打ち出すべきである。そして、核抑止は安全保障の最終的な形態でないことを認め、核兵器への依存からの脱却をめざすことを明記すべきである。

提言2

「非核三原則の堅持」こそが、日本の安全を守る

 高市首相は、国家安全保障戦略の改定にあたり非核三原則の堅持を明記するかと問われ、その明言を避けている。各種報道では、自民党内での協議において、非核三原則の見直しが検討される見通しだとされている。とりわけ「持ち込ませず」原則の見直しが論じられている。

 しかし、仮に日本の領土内に米国の核が持ち込まれれば、それが使われる前に核の配備先を破壊しようと相手側が先に核攻撃に踏み切る可能性を高めてしまう。核の持ち込みは、抑止による安全どころか、むしろ日本の安全保障を大きく損なう。また、核の持ち込みは、日本が「核軍縮・不拡散の礎石」として最重視するNPTの義務あるいはその精神に反する。

 核搭載船の寄港を認めることも、核のリスクを高める。現在米国が開発中の海洋発射型核巡航ミサイル(SLCM–N)は、通常兵器の巡航ミサイル(たとえば、米国製トマホークなど)と見分けがつかないことから、誤認による核戦争のリスクを高めることが懸念されている。そのようなミサイルを搭載した米国艦船を日本に寄港させれば、周辺国との緊張をより一層高め、東アジア全体を不安定化させてしまう。

 このように、非核三原則を堅持することは、むしろ日本の安全につながっており、周辺諸国にも安心を供与するものである。多くの国会決議で確認されてきた非核三原則は、日本が守るべき「国是」である。したがって、国家安全保障戦略の改定にあたっては、日本の安全保障という観点からも「非核三原則を国是として堅持することは今後も揺らがない」と明記すべきである。なお、核兵器禁止条約を日本が批准すれば、非核三原則は事実上、法制化されることになる。

提言3 

「核兵器の非人道性」の普及が、日本への核使用リスクを下げる

 二〇二四年、日本被団協は、被爆の実相を伝える活動を通じて「核兵器のない世界」の実現と「核のタブー」の確立に貢献したとしてノーベル平和賞を受賞した。核兵器の非人道性を伝えることで、核不使用の規範を作ってきたことが評価されたのである。

 核兵器の非人道性や核戦争の壊滅的な影響について国際社会で積極的に発信することは「核を使ってはならない」というメッセージを他国と共有し、核使用に反対する国際規範の強化につながる。それは核保有国に対して、核の使用や威嚇にともなう外交的なコストを高めるものである。日本周辺には中国やロシア、北朝鮮といった核保有国が存在し、核の脅威は現実のものである。だからこそ、核兵器の非人道性をさらに普及させることで、これらの国々による核の使用や威嚇を思いとどまらせ、核開発を非正当化する地域およびグローバルな世論の形成に取り組むことは、日本の安全保障にとってもプラスになる。核兵器の非人道性は、日本政府もNPT会議や国連総会提出の核廃絶決議において、繰り返し強調しているところである。

 逆に、日本が核共有や核保有をめざしていると諸国に誤解されることは、日本の信頼性を損ない、核保有国に核戦力強化の口実を与え、「核のタブー」を著しく弱めてしまう。

 国家安全保障戦略には「核兵器の非人道性」を明記し、その普及を被爆国としての外交政策の柱とすべきである。とりわけ、東アジア周辺国と核兵器の非人道性について話し合う場を作ることや東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々との連携を深めることが重要である。具体的には、国連「核戦争の影響に関する科学パネル」の東アジア会合の開催や、核兵器禁止条約の再検討会議にオブザーバー参加し「核兵器の非人道性」に関する議論に積極参加することなどができる。

提言4

「東アジアでの軍縮対話」で、日本にとっての核の脅威を削減する

 日本の周辺では、中国の核戦力増強や北朝鮮の核・ミサイル開発が進んでいる。しかし、それに対して抑止力の強化だけで応じれば、出口の見えない競争が続き、地域の核の脅威は高まる一方である。核の脅威を削減するためには抑止一辺倒ではなく、対話が必要である。

 現在の国家安全保障戦略では、中国との間で「建設的かつ安定的な関係」を構築するとされている。そのためにも中国との「軍縮対話」の制度化を目指すことを掲げるべきである。とりわけ首脳レベルにおいて、東アジアが直面する核のリスクと、それを乗り越えるための軍縮の取り組みが「共通の利益」になるとの理解をつくることが重要である。その前提として、日中首脳が「互いに脅威とならない」ことを再確認することで、二〇二五年一一月の高市首相の「台湾有事」国会答弁を発端とする関係悪化を一刻も早く解消する必要がある。

 日中軍縮対話では、透明性、核の先制不使用、AIやサイバーなど新興技術のリスク、中距離核ミサイルの規制・削減(東アジア版INF)などを論じることができる。まず日本としては、自国の安全保障も踏まえ、中国に提示できる核軍縮オプションを検討するタスクフォースを創設してはどうか。同時に米韓などとも議論を重ね、中国を巻き込んだ核軍縮を構想していくべきである。それは、米国や日本が呼びかけている米中ロ三カ国による核軍縮交渉にもつながるものである。

 北朝鮮は、米韓の軍事侵攻を抑止し、自国の安全を守るために核・ミサイル開発に注力していると考えられる。そのため、まずは朝鮮半島の平和を確立すべく、朝鮮戦争の終結宣言や日朝国交正常化に向けて北朝鮮との関係改善を追求すべきである。また、米国や韓国による北朝鮮との対話姿勢を歓迎しつつ、それらが朝鮮半島の非核化、そして北東アジア非核兵器地帯の形成に結びついていくよう促していくべきである。非核兵器地帯条約は、法的拘束力のある消極的安全保証を核兵器国が約束することにつながり、日本が「核の傘」に依存する必要性を大きく減らし、核兵器禁止条約参加への道にもつながる。これらを念頭に置いて、国家安全保障戦略には、朝鮮半島における平和体制の確立と日朝国交正常化に向けて取り組むことを明記すべきである。

 これら中国や北朝鮮との取り組みを一つずつ実現していくためには、地域での持続的な対話と協力が不可欠である。そのために、まず東アジア地域で共有すべき構想として、日本は「核兵器のない東アジア」を打ち出すべきである。また、地域対話を制度化するために、東アジア地域の多国間対話機構(東アジア版OSCE)の創設を目指すことも掲げるべきである。

おわりに

 核兵器を再び使わせない唯一の保証は、核兵器の廃絶である。国家の安全保障・防衛政策は、その道を誤れば、安全保障という名の下で戦争のリスクを高め、核戦争までをも引き起こす危険性をはらむものである。そのため、国会や政府においては政策決定者どうしだけでなく、被爆者団体や核兵器廃絶に取り組むNGOとの対話が積極的になされることを期待する。

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