特集「軍拡からの脱出」(2026年1月号)
シリーズ「高市軍拡の問題点」(2026年1月号)
2025年9月19日、防衛省の「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」が原子力潜水艦(以下、原潜)保有検討を示唆する報告書を発表した(以下「報告書」)。該当箇所を引用する。
●VLS(垂直発射装置)搭載潜水艦
潜水艦は隠密裏に展開できる戦略アセットである。スタンド・オフ防衛能力を具備させれば抑止力の大幅な強化につながるため、重視して整備を進めていくべきである。長射程のミサイルを搭載し、長距離・長期間の移動や潜航を行うことができるようにすることが望ましく、これを実現するため、従来の例にとらわれることなく、次世代の動力を活用することの検討も含め、必要な研究を進め、技術開発を行っていくべきである。(14頁)
読売新聞は「報告書」をうけて9月29日付社説で(次世代の動力とは)「原子力潜水艦が念頭にあるという」と記した。同社社長兼主筆代理の山口寿一氏が同会議委員であることから、この「次世代動力」の含意は明らかだ。思い返せば読売新聞は2011年9月7日の社説でも原子力利用と潜在的抑止を結びつけて論じていた。
高市政権樹立に際し、自由民主党と日本維新の会は「連立政権合意書」を締結した。その中で両党は、「報告書」とほぼ同趣旨の政策を進めることで合意した。なお日本維新の会は2024年の衆議院議員選挙の際に発表したマニフェスト「維新八策2024」で、米国との原潜や核兵器の共有検討を提言していた。また高市政権で就任した小泉進次郎防衛大臣は10月22日の記者会見で「現時点で、潜水艦の次世代の動力の活用について決定されたものはありませんが(中略)あらゆる選択肢を排除せず、抑止力・対処力を向上させていくための方策について検討していきたい」、さらに11月7日の記者会見では「原子力だからということで議論を排してはならないと、こういったことが私の思いとしてはあります」と発言している。
政府見解
日本は過去にも原潜の保有を検討したことがある。たとえば1974年、楢崎弥之助議員(社会党、衆議院)が衆院予算委員会で川崎重工が1958年に作成した「2,500T 8,000SHP 原子力潜水艦 原子動力装置 計画計算書」の存在を国会で暴露し、国の関与をただした。この「計算書」には「艦として成立するという一応の結論を得た」との記述があったという。また防衛庁、科学技術庁、防衛産業、学識経験者が参加する「防衛装備国産化懇談会第十四部会」が1964年に「潜水艦用新型動力の調査・研究開発に関する意見」を取りまとめた。「原子力機関の重要性、原子力潜水艦の水中高速力と水中巨大航続力とに対応して原子力潜水艦の活動を阻止し、海上防衛の実効を果たすためには、われもまた原子力潜水艦によって防衛することが最も効果的である」と記されている。
翌1965年、田中武夫議員(社会党、衆議院)の質問に対し、愛知揆一科学技術庁長官は「原子力基本法第二条には、『原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、』云々と規定されており、わが国における原子力の利用が平和の目的に限られていることは明らか……したがって、自衛隊が殺傷力ないし破壊力として原子力を用いるいわゆる核兵器を保持することは、同法の認めないところ……原子力が殺傷力ないし破壊力としてではなく、自衛艦の推進力として使用されることも、船舶の推進力としての原子力利用が一般化していない現状においては、同じく認められない」と答弁した。政府は船舶の推進力としての原子力の一般化を原潜保有の前提としたのだ。その後も政府は何度か原潜保有を検討したが、結局、時期尚早として今日に至った。なお政府は宮川伸議員(立憲民主党、衆議院)の「『次世代の動力』の自衛隊潜水艦への活用に関する質問主意書」に対して、11月14日付けの回答で、今もこの見解を維持していると答弁している。













