「間接協議」の背景
2025年4月、イランの核技術開発をめぐる米・イラン協議が始まった。交渉はオマーンの仲介のもと、イラン側の発表によれば「間接協議」の形で行なわれている。これまでオマーンおよび在ローマ・オマーン大使館において行なわれてきた交渉は、イランと米国の代表団が同じ建物の別の部屋に待機し、メッセージを書面で伝え合う形で実施された。両者間のメッセージのやり取りは、オマーンのバドル外相が担当した。
イランが米国との「間接」協議にこだわる背景には、イラン側の根深い不信感がある。かつて2015年にもオバマ政権下で成立したイラン核合意では、イランはウラン濃縮を含む核技術開発を大幅に縮小させる見返りに、制裁解除を勝ち取った。しかし、トランプ大統領は2018年に、イラン核合意を「史上最悪の合意」と呼んで破棄し、合意にもとづき解除されていた制裁をすべて復活させるとともに、「最大限の圧力」の名の下に、対イラン制裁をさらに強化した。
イランは1979年の革命でイスラーム共和国体制を樹立して以降、「米国との対抗」を国是として掲げてきた。したがって、イランが今回「間接的」とはいえ米国との協議に応じたことは、イラン側も協議を望んでいたことを意味する。その理由として考えられるのは第一に、トランプ政権期以降維持されてきた米国の「最大限の圧力」がイラン経済を疲弊させ、通貨(イランリアル)の暴落と高インフレを招き、国民生活を圧迫してきたことがある。トランプ大統領が核合意を破棄して以降、イラン側も核関連活動を徐々に拡大させ、イランはすでに濃縮度60%の濃縮ウランの生産に成功している。しかし、核関連技術の確立と引き換えに、国は貧しくなっているのである。