安保法制10年 日本はどう変容したか

飯島滋明(名古屋学院大学教授)
2025/06/07
衆院平和安全法制特別委での安保関連法案の可決を受け、大勢の人々が抗議のため国会前に集まった。2015年7月15日。共同

 2015年9月19日、安倍自公政権は、世界中での武力行使を自衛隊の任務とする「安保法制」を、大多数の国民世論に反する形で強行採決した。

 それから10年、自民党・公明党政権は外国を攻撃できる兵器の保有を進めてきた。そのための自衛隊駐屯地・基地も新設・強化させてきた。自衛隊の軍事訓練でも、日本が攻撃され、「戦死者」が出ることすら想定した訓練が実施されるに至っている。日本全体の「米軍の一部化」も進んだ。第二次安倍自公政権以降、軍事費は増額がつづいた。とりわけ2022年12月16日に岸田自公政権が決定した「安保三文書」以降、軍事費大増額は急加速した。

 こうして日本の軍事政策や自衛隊も大きく変わった。「戦争する国づくり」を進める自民党・公明党政権に対し、私たちはどのような選択をし、何をすべきか。

世界中での自衛隊の武力行使を認める

 「戦争する国づくり」の法的根拠が、いわゆる「安保法制」である。安保法制は10の法改正と1つの新しい法律の制定からなる。内容は多岐にわたるが、米ワシントンポスト紙2015年7月16日付では端的に、「第二次世界大戦以降はじめて日本軍が海外で戦うのを認める法律」と紹介された。世界中での自衛隊の武力行使を認めるのが安保法制である。日本が攻撃されたわけでもないのに、日本が先に外国を攻撃することも可能とされた。

 旧自衛隊法3条2項1号では、自衛隊の活動は「我が国周辺の地域」との地理的制約が明記されていた。しかし安保法制により、「我が国周辺の地域」の文言が削除された。その結果、世界中での自衛隊の行動が可能とされた。

 そして安保法制は、「集団的自衛権」を認めた。集団的自衛権とは、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されてもいないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」(1981年鈴木内閣政府答弁書)である。歴代日本政府は、集団的自衛権は憲法上、認められないとの立場をとってきた(たとえば1954年6月3日衆議院外務委員会での下田武三条約局長答弁)。ところが安保法制は、日本は攻撃されていないのに、日本と密接な関係にある外国への攻撃が日本の存立を脅かす明確な危険があると政府が判断した場合を「存立危機事態」(武力攻撃事態・存立危機事態法2条4号)とし、自衛隊が先に外国を攻撃することを可能にした(法3条4項)。2017年8月10日、衆議院安保委員会で小野寺防衛大臣〔当時〕は、「米国の抑止力、打撃力の欠如は、日本の存立危機事態に当たる可能性がないとは言えない」と答弁した。こうした解釈なら、アメリカへの攻撃はすべて「存立危機事態」となり、世界中での自衛隊の武力行使が可能になりかねない。なお、「存立危機事態」と認定されれば、国民や自治体、医療機関、報道機関などの「指定公共機関」が国の措置に協力することにもされている(法3条1項)。アメリカの戦争に自衛隊が参加し、先に外国を攻撃すること、日本の「国家総動員体制」が「安保法制」で構築・強化された。

 さらに「安保法制」は集団的自衛権に留まらない、世界中での武力行使を自衛隊の任務とした。実際、2016年、安保法制にもとづく「駆け付け警護」(PKO協力法3条5号ラ)や「宿営地の共同防護」(PKO協力法25条7項)任務を付与された自衛隊が南スーダンに派兵された。南スーダンでの自衛隊の武力行使は日本防衛や集団的自衛権には全く関係ない。南スーダンへの自衛隊派兵が示すように、「安保法制」で世界中での武力行使が自衛隊の任務とされた。

飯島滋明

(いいじま・しげあき)名古屋学院大学教授。憲法学。編著書等に『国会審議から防衛論を読み解く』(三省堂)、『自衛隊の変貌と平和憲法』(現代人文社)など。

2025年7月号(最新号)

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