殴られる牛、暑さで死ぬ鶏――畜産動物を虐待か守る法規制を

森 映子(ジャーナリスト)
2025/06/13
搾乳室で治療した足を竹棒でたたかれる牛。茨城県畜産センター、2022年(提供:元従業員)

 鶏の唐揚げや豚肉の生姜焼きにハンバーグ、チーズやヨーグルト……。食卓で人気のこうした肉類や乳卵製品の原料である動物はどのように飼育されているのか。近年、欧米を中心に、採卵鶏の詰め込み式ケージ飼いが禁止されて平飼いが急速に増え、母豚を著しく狭い檻に閉じ込める妊娠ストールが禁止されるなど、動物本来の行動欲求が満たされるよう飼育環境を改善するアニマルウェルフェア(動物福祉)の重要度が増している。一方、日本では採卵鶏のケージ飼いは約96%、養豚場の約9割が妊娠ストールを使用、乳牛の放牧は約2割といった現状にある。

牛を殴る蹴る、不衛生な飼育場

 昨年3月、茨城県畜産センター(石岡市)の従業員たちが「日常的に牛を蹴る殴る、治療中の足を金属製のスコップで十数回突くなどの暴力を振るい、糞尿が堆積し泥濘化した運動場など不衛生な環境下で牛を収容した」などとして、JAVA、PEACEなど4つの動物保護団体が管理者である県と元センター長ら職員8人に対し、動物愛護管理法(動愛法)の動物虐待罪で県警へ刑事告発。石岡署は今年1月、県と職員を水戸地検に書類送検した。

 センターは1902年に設立。牛乳や乳製品の原料となる生乳や和牛の受精卵の販売などを行ない、生産性向上を目的に研究を行なう動物実験施設でもある。2022年4~7月に同所で働いた元従業員のAさんは「自治体の施設だからきちんとした酪農を学べるだろうと勤めたが、あまりにも酷くて愕然とした。職場の2班のリーダーは二人とも、搾乳室に移動させる際に1刻も早く動かすため、牛を蹴っていた。ベッド(牛が休む床)に座っている牛には、足を持って踏みつけるよう指示された」と打ち明ける。

 さらに、供卵牛(和牛の受精卵を採取するための雌牛)の牛舎と運動場では、「糞尿をかき出す掃除がちゃんとされてなかった。ハエがたかり、尻尾にはこびりついた糞が玉になっていた」。

 乳牛のフリーストール(自由に動ける)牛舎も、「糞出しを朝1回しかしないので、翌朝は通路が糞尿でべちゃべちゃ。牛の腹から後ろ足にかけ、糞がうろこのように付いていた」。

 Aさんが特に心を痛めたのが、乳牛がほぼ半日を過ごすベッド。「敷料の砂は従業員が毎日ならし、硬くなったらすきなどで砕き、数週間に1回砂を補充すれば快適な寝床になる。でも作業を怠り、どこもデコボコ、カチコチで、スコップでどうにかなる硬さではない。だから通路で寝ている牛が多かった。乳房や乳頭が当たる寝床が硬いと、どれほど痛いだろうか……。いたたまれない気持ちと怒りで眠れないほどだった」

糞の汚泥の中にいる牛 茨城県畜産センター 2022年=元従業員提供

森 映子

ジャーナリスト。1991年通信社入社。さまざまな分野の動物をめぐる現状を取材。著書に『犬が殺される』(同時代社)、『ヴィーガン探訪――肉も魚もハチミツも食べない生き方」(角川新書)。

2025年7月号(最新号)

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