ガザ殲滅――イスラエル建国以来の宿願と戦争犯罪

早尾貴紀(東京経済大学教授)
2025/06/13
ガザ地区北部のジャバリア難民キャンプで、イスラエル軍の空爆を受け負傷した少女を抱えて助けを求める男性。2025年5月21日。Photo by Mahmoud Zaki/Xinhua/ABACAPRESS.COM/共同

はじめに──ガザ殲滅という歴史的欲望

 ガザ地区は、イスラエルによる歴史的に一貫した強い意志のもとに、文字どおり殲滅させられようとしている。これは、2023年10月7日に起きたガザ地区からの一斉蜂起のためではない。

 1948年、イスラエルが欧米の入植者植民地主義セトラー・コロニアリズムという暴力によって、先住パレスチナ人を追放することで建国されたときに、ガザ地区は休戦ラインによって難民収容所のように小さく切り取られて成立した。人口の70パーセント以上が、イスラエル側に故郷の村を奪われた難民であり、難民たちはその元の故郷へと帰還する権利を国連によって承認されており、それゆえにその帰還権の実現を求める抵抗運動は即座にイスラエルのユダヤ人国家としての正当性を揺るがす主張として、イスラエルからは徹底的に弾圧されることとなった。

 こうした歴史的な経緯から、イスラエルによるガザ地区の存在そのものを抹消しようという企ては、その一段階ないし手段として、とりわけガザ住民の難民の虐殺や追放という形で、ユダヤ人国家建設運動の中で繰り返されてきたのである。

 したがって、いまガザ地区が被っている大量虐殺ジェノサイドと強制ディス避難プレイスとは、イスラエルがおよそ100年前から狙ってきたことを最終的に実現する絶好の好機として捉えられ、そして着実に実行に移されているのである。

停戦合意の一方的破棄と集団移住の促進

 今年1月19日に仲介国(米国、カタール、エジプト)によって調整され発効したイスラエルとハマースとの間の停戦合意は、第一段階で予定されていた人質交換を終えて、第二段階(ハマースが残りの人質を解放し、イスラエル軍がガザ地区から撤収する)へ移行する期限を過ぎたところでイスラエルが一方的に停戦合意を破棄して3月18日から軍事攻撃を再開した。これは、ハマース側が停戦合意に沿って第二段階への移行を主張したのに対して、イスラエル側が明確に軍の撤退を拒否して、ガザ地区の全面的な支配をあらためて宣言したものだ。

 この1月19日からガザをめぐる情勢に大きな変化があったことは、このイスラエルの攻撃再開に影響を及ぼしている。それは、停戦合意を自らの就任祝いのように演出したアメリカのドナルド・トランプ大統領が、1月20日に就任するやすぐに、ガザ地区からの全住民の一掃と、アメリカが関与するかたちでのガザ復興計画を、強硬に要求し始めたことである。エジプトとヨルダンにガザ住民の受け入れを直接交渉し、不調に終わるや湾岸諸国やインドネシア、またガザ停戦を要求した国々に、ガザ住民の受け入れを要求した。さらに2月には「不動産王」トランプらしく、アメリカによるガザ地区の所有とリゾート開発計画「中東のリビエラ」をぶち上げた。

早尾貴紀

はやお・たかのり パレスチナ/イスラエル研究、社会思想史。ヘブライ大学客員研究員(2002-04年)。著書に『パレスチナ、イスラエル、そして日本のわたしたち』(皓星社)、『イスラエルについて知っておきたい30のこと』(平凡社)ほか。訳書に、ハミッド・ダバシ『イスラエル=アメリカの新植民地主義 ガザ〈10・7〉以後の世界』(地平社)、同『ポスト・オリエンタリズムーテロの時代における知と権力』(作品社)ほか。

2025年7月号(最新号)

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