オンリー・アメリカの「相互関税」

中本 悟(立命館大学特任教授、日本国際経済学会元会長)
2025/06/13

 トランプ政権は4月2日、貿易相手国すべての185カ国に10%の関税を、さらにそのうち57カ国には追加関税を課すという「相互関税」を発表した。この発表は世界的な混乱を引き起こし、貿易紛争再来と景気後退を危惧する投資家が米国株を売却し、株価は3日、4日の両日で10%超の下落となった。これには大統領も敏感に反応し、「相互関税」が発動される9日に、報復関税を取らない国に対しては、10%を超える追加関税の発動を90日間延期し、その間に各国とのディールによって「相互関税」の関税率を決めると表明した。

 また関税引き上げ合戦になっていた米中間の関税は、5月10~11日のスイスでの閣僚協議で双方が115%の引き下げで合意。米国は対中追加関税を145%から30%に、中国は対米追加関税を125%から10%へとそれぞれ引き下げた。これを受けて米国の株価は急騰し、年初の水準にまで戻った。

 「相互関税」のこれまでの経緯は、以上のようである。小稿では、この「相互関税」の基本的な問題を検討する。第一に、その背景にあるトランプ大統領政権の国際貿易および貿易赤字の捉え方、第二に、「相互関税」が世界貿易体制に及ぼす影響と意味について検討したい。

中本 悟

1955年生まれ。立命館大学特任教授。日本国際経済学会元会長。専門はアメリカ経済論、国際経済論。編著書『現代アメリカ経済論――新しい独占のひろがり』(日本評論社、2023年)ほか。

2025年8月号(最新号)

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