トランプ関税の地政学――メキシコの場合

所 康弘(明治大学商学部教授)
2025/06/13
メキシコ南部国境付近の街タパチュラ。ハイチ人移民であふれる移民庁事務所前の公園(撮影:三好哲平)

 本稿では、NAFTA(北米自由貿易協定、1994年発効)の改定および移民管理政策の展開を通じて、大きな負担を強いられてきたアメリカの隣国メキシコの事例を取り上げる。なぜメキシコなのか。それは、同国が2023年以降、アメリカにとって財貿易における最大の輸入相手国となっているだけでなく、移民問題を含む地政学的観点からもきわめて重要な位置を占めているためである。

 トランプの最初の任期において、いかにメキシコに対して一方的な交渉が行なわれたか、それが自由貿易の見直しではなく――あるいは単なる保護主義でもなく――多国籍資本およびアメリカ中心の利害秩序をいっそう強化するものであったかを明らかにする。そして、2期目で展開される政策の今後の展望を提示したい。

トランプ主義は多国籍資本の新たな化身

 第1期トランプ政権の対外経済政策は、しばしば「アメリカの労働者や製造業を守る保護主義的政策」として報じられてきた。実際、就任直後からトランプは、アメリカ人の賃金と雇用を高め、移民法の厳格な運用をめざす「アメリカ製品の購入・アメリカ人の雇用(Buy American and Hire American)」大統領令に署名し、既存の貿易協定の見直しにも着手した。

所 康弘

(ところ・やすひろ)明治大学商学部教授。博士(商学)。専門は国際政治経済学、国際貿易、ラテンアメリカ地域研究。これまでに、メキシコ国立自治大学およびスペイン国立高等学術研究院で客員研究員を務めた。

2025年7月号(最新号)

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