【連載第1回】歌舞伎町で。(1)差別と排除のなかで置き去りにされる少女たち
【連載第2回】歌舞伎町で。(2)「少女を守る」と胸を張るおじさんたちが守りたいもの
【連載第3回】歌舞伎町で。(3)「家族の助け合い」という言葉が隠すもの
実名報道された女性たち
2025年7月24日、複数の報道機関が、新宿・歌舞伎町の大久保公園周辺で「売春」していた4人の女性を逮捕する様子を動画等で撮影し、女性たちの顔や名前、年齢とともに報じた。
各局の見出しは、次のようなものだ。日本テレビ「大久保公園周辺で売春目的の客待ちか 女4人を逮捕」、TBS「歌舞伎町観光客らを狙った〝立ちんぼ〟行為か 女4人逮捕」、フジテレビ系列のFNNプライムオンライン「〝立ちんぼ〟の女4人逮捕の瞬間」、NHK「東京 歌舞伎町 外国人観光客などに売春目的で客待ちか 4人逮捕」……
こうした報道には、多くの問題がある。犯罪者として顔を出して実名入りで報道された女性たちは、すでに人権団体がサポートに入っていた保護の対象であった。言うまでもなく、人身売買の構造の中で起きた事件である。にもかかわらず、各テレビ局は、彼女らだけを切り取り、「犯罪者」として公開した。そのことに、私たちは大きな衝撃を受けた。
4人の女性は、今年5月から先月にかけて、新宿区の大久保公園周辺で売春目的の客待ちをしていたとして逮捕されたと報じられた。逮捕時の様子、女性の名前と顔、年齢のほかにも、女性が客待ちする様子や、男性から金銭を受け取る様子が動画等で配信され、現在もインターネットで拡散されている。彼女たちの姿が晒された記事のコメント欄では、無数の男たちが彼女たちの見た目やスタイルを評価し、「いいじゃん」「どれも無理だわ」「チェンジで」「これに金払うのか」「○○さんだけはアリだな」「きたねえな」などの書き込みがされている。
警察から情報を得て、逮捕前に女性が男性から金を受け取る様子を隠し撮りした映像を使用したメディアも複数あり、逮捕の様子もそのタイミングで警察が報道機関に撮影させ、女性が突然カメラに囲まれて戸惑う様子や、手錠をかけられて顔を隠すこともなく諦めた表情で歩く姿も報道された。路上で体を売る生活をしている女性たちの姿や逮捕の瞬間がこのように報じられることは、これまでなかった。
警視庁はメディアに対し、2024年1月から11月までに、88名の女性を大久保公園付近で売春の客待ちをしていたことから売春防止法違反の容疑で逮捕した、と説明している。これまでも性売買女性摘発の報道が警察発表をベースに行なわれてきたが、あまりにも表面的で、十分な取材をしていない、警察の言い分を垂れ流すような報道がつづいている。
大久保公園周辺には、女性たちを路上に立たせ、利益を回収する犯罪組織が複数あり、彼らが女性を管理している。そうした実態を報じることなく、女性の個人的な行動であるかのような誤解を生む報道が、これまで他の事件でもつづいてきた。
メディアによる人権侵害はどう生まれたか
そのような報道により性売買のなかにいる女性の人権が侵害されていることから、Colaboは顔出し実名報道の翌日、7月25日に緊急記者会見を行ない、性売買女性を被害者ではなく加害者としてみなし、さらし者にする報道に抗議した。
これらの報道がどのように人権侵害を生み出したのか、三点に絞って説明する。
■構造と実態に切り込む取材と報道の不在
第一に、性売買の実態を踏まえた取材と報道がされていないことが問題だ。
私たちは、性売買のなかにいる少女や女性たちとつながり、脱・性売買を支える活動を15年つづけてきた。大久保公園周辺で買春者を待つ女性たちともつながり、相談や食事提供、シェルターでの保護、行政機関や専門機関への同行支援、生活支援や就労支援等、さまざまな支援を行なっている。
性売買のなかにいる女性の背景には、生活困窮や孤立、ホストやコンセプトカフェ関係者からの脅しや借金、グルーミング、家族からの虐待や恋人からのDV、帰れる家がないなど、さまざまな問題がある。それらは女性の個人的な問題ではなく、女性に困難を背負わせ、孤立させる社会の構造的な問題だ。就業や就学ができなかったり、病気や障害を抱えたりしている女性も多く、複合的な困難を抱えた女性を性売買に誘導し、女性たちが性売買で得た金を搾取する業者や加害者の巧妙な手口がある。
そうした社会構造の中で女性が性売買に誘導されている。私たちが出会っている性売買を経験した女性たちはみな、「それしかなかった」と語る。それ以外の選択肢がない状況に追いやられたり、そう思わされたりした女性が、大久保公園に立っている。報道各社は、性売買の実態、構造に切り込む取材と報道をする責任がある。
■必要な支援と法に関する報道の不在