【新連載】TECH JUSTICE――公共性と倫理ある人々の技術へ(1)新たなSNSの構想

内田聖子(ジャーナリスト。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表)
2025/06/12

「ソーシャルメディアを億万長者から救おう!」

 2025年1月13日、米国の技術者、研究者、アクティビスト、ジャーナリストらが新たなキャンペーンを開始した。「Free Our Feeds(私たちのフィードを解放せよ)」と題したこの取り組みは、オープンで公共の利益に資するSNSのエコシステムの構築を目標に掲げている。

 1月13日とは、トランプ大統領就任式のちょうど1週間前であり、マーク・ザッカーバーグがフェイスブックのファクトチェックを廃止し、人種差別や性差別的な文言を認めるようモデレーションの緩和を発表した直後でもある。さらに、政府効率化省を率いるイーロン・マスクは、多くの省庁への攻撃を準備していた。冒頭の「億万長者」が誰を指すのかは明白だろう。

 トランプ第二次政権誕生とともに生まれたこのキャンペーンは、何を求め、私たちに何を提起しているのか。

大きすぎて“ケア”できない

 現在、世界で主要なSNSは圧倒的に米国企業が独占している。中国企業も多いが、これは中国の人口規模から来るもので、ユーザーはほとんどが中国国内。国際的な広がりは米国企業にかなわない(図1)。

 これらSNSプラットフォームは、ユーザーに無料でコミュニケーションのツールを提供し、そこで収集した個人の属性や行動履歴をAIにより分析し、ターゲティング広告や「おすすめ動画」などの形で表示する。企業は広告料を収入源とし、私たちの「関心アテンション」が経済価値を持って取引されるという意味で、「アテンション・エコノミー(関心経済)」と言われ、また私企業によって私たちの行動が予測され、誘導され、自己決定権すら奪われかねないという意味で「監視資本主義」とも言われる。こうしたビジネスモデルは過去20年の間にすっかり私たちの日常に浸透した。

 一方、SNSの言論空間には負の側面がある。2024年の米大統領選ではイーロン・マスクが経営するX(旧Twitter)はじめ多くのSNSにデープフェイクや偽情報が氾濫した。トランプ自身が運営するSNS「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」では差別を煽る投稿がインフルエンサーによって拡散されてきた。日本でも選挙におけるSNSの課題は多くの人が実感している。政治的な対立のみならず人種や文化間、コミュニティの中でも分断と二極化が起こり、それを加速させるエンジンとしてSNSが機能してしまっている(詳細は拙稿「偽情報とディープフェイク――もう一つの大統領選」(月刊『地平』2025年1月号)参照)。

内田聖子

(うちだ・しょうこ)ジャーナリスト。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表。自由貿易協定やデジタル政策のウォッチ、政府や国際機関への提言活動などを行なう。著書に『デジタル・デモクラシー ビッグ・テックを包囲するグローバル市民』(地平社)など。

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