政策でつながる市民、地方議員、首長
5月18日、都内で「『選挙と民主主義』を地域から修復する 東京都議選から全国へ」と題する全国集会に、オンライン含め300人以上が集まった。東京都議選を6月22日に控え、参議院選挙がその後に続くこの時期、この難しいお題に挑戦したのはローカルイニシアティブネットワーク(LIN-Net)という全国ネットワークだ。私も運営委員の一人として参加している。
兵庫県知事選挙において「選挙と民主主義」の現場に、フェイク情報が飛び交い、憎悪の感情が拡散され、脅迫やつきまとい、暴力にまで及んで、百条委員会で斎藤知事を追及してきた県会議員を標的に攻撃が組織された。百条委員会の委員を務めた丸尾まき兵庫県議がイベントに登壇してくださり、現在も続くひぼう中傷の状況、そして、ひとたびネット上で貶められた名誉の回復がいかに困難であるかなどを語った。都議会自民党の裏金問題の真相を追及する都議の報告もあった。
私たちは選挙と民主主義をめぐる危機的な状況の中にいるが、それは世界も同様であり、冷静に毅然と着実に足もとから修復していく回路を作っていかなければならない。
イベントを通じて参加したすべての人が熟考したのは、異なる意見や立場の多様な人々が対話を通じて関わり合う未来を具体的に作っていく覚悟だと思う。最近の選挙で当選した、三重県・伊賀市の稲森としなお市長、東京都・国立市のはまさき真也市長、兵庫県・宝塚市の森りんたろう市長がそれぞれ、市民とともに創り闘った選挙戦と、その先に実現しようとする政策について話した。
LIN-Netはその理念を示す政策の柱があり 、それらを通じて選挙の前も後も、市民も代表者もゆるやかにつながる場である。パネルディスカッションは東京都政に着目し、気候危機、市民参画のまちづくり、ケアを社会のまん中に、人権・ジェンダー・多様性の尊重などの課題をめぐって、現職都議、市議、首長が課題や具体的な政策を討議した。29歳の鈴木ちひろ市議会議員(国分寺市)は、東京都の少子化対策としての卵子凍結や無痛分娩の助成は、子どもを産まない選択をした人を不完全と思わせる圧力や違和感を感じさせると指摘すると、都議からも、長時間労働の問題や、子どもを産まない選択をせざるを得ない社会的な理由から目を背けているとパネルは盛り上がった。
その延長で、東京都の住宅や公共交通政策に話題は及ぶ。「住まい」は人権の基礎であることを明確にし、住宅開発を民間企業に委ねてきたこれまでの東京都の住宅政策を転換する必要性が討議されたことも重要であった。鈴木市議は、若者が政治や選挙から遠ざかるのには社会的な要因があるとし、若者が主権者として成長できる積極的な政策として、1000万円の予算提案権がある愛知県・新城市の事例を紹介した。
LIN-Netのメンバーは、若者が希望を持てる社会には若者の政治参画とエンパワーメントが必要だと思っているので、イベント全体に若年層が関われるよう心がけた。政治参加や気候危機問題に取り組む10代、20代がイベントに参加し、スタッフとしても積極的に活躍した。
最後は参加者全員でグループトークを行ない発表した。不安や危機感、苦悩や困難の混沌の中に誰もがいたが、同時に確かな挑戦と希望が各地の地べたにあり、それらはつながり合うことができると力を得た。LIN-Netの牽引役でもある世田谷区の保坂展人区長は、最後に集会のアピールを宣言するとともに、政治に関わるもの誰もが攻撃やひぼう中傷にさらされる未曽有のリスクに対して、LIN-Netとしてサポート体制を考えたいと述べた。まだ誰も効果的なやり方はわからない。それでも連帯と協力の社会基盤を作ろうというLIN-Netのコミットメントが示された。
民主主義を濃霧や雷雨がとりかこむ危機の中で「新たな地域政治の地平」を見ようとする喫緊の集会の報告から本稿をスタートした。約3年前、杉並では政治の「新しい景色をみよう」という合言葉が、区長選挙やその後の区議会議員選挙を通じて自然発生的に生まれた。私は「住民思いの杉並区長をつくる会」という住民運動のネットワークと政策協定を結んで区長選を闘い勝利した。勝利の時には万歳三唱の代わりに「みんなのことはみんなで決める」「選挙は続くよどこまでも」と皆で喜び合ったが、前者は地域主権を表しており、後者は「選挙と選挙の間の民主主義をつくる」ことへの表明であった。
昨年、任期のまん中の中間報告として『杉並は止まらない』を地平社から刊行し、本稿でさらにそのアップデートを書く機会をいただいた。この3年、私の足もとである杉並区で民主主義を丁寧に修復しようとする作業を重ねてきた。だが、区長選は投票率が上がったとはいえ37・52%、20代においては20・28%である。この危機的な投票率の低さを直視しなければならない。
一人一人の生活や生きづらさは政治とつながっており、個人的なことは政治的なことである。生活する場で、人と出会うこと、話すこと、ともに考え作業すること、関わりつづけること、つまり参画することで、人は自分を社会の大切な一部だと感じ、力を得ることができるのではないか。地域政治の中に「私のエンパワーメントは地域のエンパワーメント」の化学反応の連鎖を起こし、「私が地元の主人公」と思える楽しさや幸福感の先に、「私のとなりに民主主義がある」。人々の意見や立場は多様であり、自分の考えを大切にしながら他者の考えを聞く寛容さを養う対話から、自分の正解ではなくみんなの納得解を探す。
これは、匿名性の高いSNS空間での「正論」の戦いやデマ、ひぼう中傷を武器にする攻撃の対極にある。地方自治体は参画する人の心理的安全性を確保し、民主主義のトレーニングの現場を多様なカタチで地域の中に創っていくことができる。地域政治の中で自分が大切にされているという実感や体験なしに、主権者として成長しろというのは傲慢だし、実際に難しい。すべては過程の中にあるが、「選挙と選挙の間をつくる」具体的な成果が少しずつ見えてきた。
今年4月1日より「杉並区子どもの権利に関する条例」がスタートした。条例は子どもが、権利の主体として尊重され、安心して暮らすことができる地域社会の実現を目指す。時を同じくして、「子どもの居場所づくり基本方針」ができ上がった。区のすべての子どもに、家庭や学校以外に、歩いて15分以内に安心して楽しく過ごせる居場所があることを目指している。
約2年をかけ、当事者である子どもたちの意見をさまざまな方法で汲み取り、庁内の検討を重ね、議会に諮り、条例と基本方針が生まれた。現存する25の児童館を子どもや中・高校生の居場所として、児童福祉の専門職員とともに拡充していく。
このプロセスの中で、職員が本質的に「子どもの意見を聞く」というのはどういうことなのかと悩みながら試行錯誤し、部署を越えた議論、共有、実践が広がっていった様子もしっかり見てきた。行政が持っている公共施設のネットワークを活用し、図書館や集会施設も大いに利用して子どもが自習できる場所などを増やそうという柔軟な発想も生まれた。政策づくりを通じて、地域に出て話し合う中で、行政だけでがんばるのではなく、地域の人々と協力して多様な居場所を作っていこうという機運が生まれた。
条例や計画ができた時に、職員の周りに当事者や多様なステークホルダーがいて、これからをいっしょに歩んでくれると自信を持てる。自治体の政策作りは職員と市民がエンパワーされ、ともに成長することができる。
答えのわからない複雑な課題に取り組むことは難しいし、勇気のいることだ。しかし本質的に現代社会は答えのわからない課題ばかりであり、自分たちで考え、実験し、改善し、取り組みつづけるしか方法はない。
昨年、約1年間をかけて行なった気候区民会議はその一例だ。無作為抽出で数千人に案内状を送り、参加したいと言ってくれた区民の中から約80人を選出。社会の縮図に近いミニパブリックスを作り、専門家や職員からの情報提供を受け、参加者間で熟議をする。その結果、気候変動危機に向き合い区全体として取り組むビジョンと、循環型社会・公共交通・みどり・エネルギー分野の具体的な区民提案を受け取った。区民会議と並行して、区役所では気候危機対策本部を設置し、環境部だけではなく組織横断的に気候危機に取り組む体制を作った。区民提案のうちできることは事業化や予算化を行ない、すぐにはできないことはこれからも区民と共に取り組んでいく。
自治体の予算の一部について、市民が事業を提案し、精査されたものについて市民が直接投票を行ない、選ばれたものを事業化する市民参加型予算。こちらは今年度3回目を迎える。今年度のテーマは「健康・ウェルネス―心身ともに健やかに」だ。無作為抽出と希望者の参加を募り、いっしょに提案を作ろうという3回シリーズのワークショップには予想以上の希望が集まった(図参照)。

「私の願い」が「みんなの願い」に、さらには市民が「公共政策として考える」ところまで対話がどんどん成長していく様子を、企画する職員がワクワクとした表情で教えてくれた。
限られた紙面の中で、多様な方法で進む区民参画や協働の取り組みのすべてを紹介することはできないが、その多くはすぎなみボイスとすぎなみプラスという行政、区民の双方向のコミュニケーションを可能にするプラットフォームで見ることができる。対面の情報共有とコミュニケーションは一番大切だが、デジタル空間を整備することで、新たな人がいつでも参画することができる。
自治にもとづく民主主義は生活の中にあり、生活や仕事の基盤は地域にある。その地域での生活と政治の距離を近づけるために、地方自治体は多様な対話の場を作ることができる。要望型でもおまかせでもなく、多くの住民はすでに地域の課題に取り組んでおり、また関わりたいと思っている。行政は住民との協働を可能にする信頼の基盤を作り、対話を重ねることでより精度の高い政策、活かされる政策を作り、地域社会に還元できる。
民主主義の危機の波に押しつぶされそうになりながら、私は地域政治の中に新たな地平をしっかり見つめ、できるだけ多くの人々といっしょに前に進んでいきたい。










