雑誌と政変 論壇誌が社会を動かす

会田弘継(ジャーナリスト)
2025/06/08
1957年か1958年頃に撮影されたThe Atlantic(当時はThe Atlantic Monthly)の編集会議。当時、発行部数約25万部の購読者を抱えていた。(Mass Humanities)

新たな論壇誌が誕生するとき

 「米国に政治再編が起きるとき、新しい雑誌が生まれることがよくある。政治再編プロセスというのはカオス状態であり、それまで秩序を維持してきた諸制度が分裂し、崩壊したり、虚空の中にさまよい出したりするからだ……」

 このように告げて、米国でことし1月、新しい論壇誌がスタートした。「コモンプレイス(commonplace)」というタイトルだ。オンライン版である。「平凡な」「当たりまえのこと」という単語だが、論壇誌タイトルだから「共通の場」あるいは「共有の場」と読め、聞こえる。主宰者はこう言っている。

 「コモンプレイスはさまざまな派閥を結ぶ橋になり、事実にもとづく議論を進める共通語になる」

 新しいオンライン論壇誌を発足させたのは、当時41歳の保守派論客オレン・キャス。ハーバード法科大学院を優等で卒業した後、20代後半に2012年大統領選挙で共和党の大統領候補ミット・ロムニーの内政顧問を務めた。その後、共和党を労働者寄りの政党に改変する「改革派保守(リフォーモコン)」運動の中心的な論客として活動し、トランプ政権にかなりの影響力を持つ。まさに「米国政治再編」の真っただなかに位置する論客だ。だから、冒頭の彼自身の言葉どおりに、新しい雑誌を起こしたのである。

 創刊1年を迎えた本誌『地平』も、そのようにしてスタートしたと理解している。いま日本も「政治再編プロセス」の中にあるとみてよい。再編されなければ困る。この国は行き詰まり状態だからだ。そこで新雑誌(論壇誌)が登場するのは必然だ。もっと新雑誌が現れてもいいはずだ(逆にあたまの旧い雑誌は退場してほしい)。歴史的に見ても、敗戦後の大規模な政治・思想再編の中で論壇誌『世界』が創刊され(1946年)、新しい時代に向け意識の幅や深さを広げていった。さかのぼれば、明治維新の国家大再編にあたっては『明六雑誌』が生まれ(1874年)、近代化のための英知がそこで磨かれた。大正デモクラシー期には総合誌『改造』が創刊され(1919年)、進歩的言論をリードした。いずれも当然なことだ。

論壇誌がアメリカをつくった

会田弘継

(あいだ・ひろつぐ)ジャーナリスト・思想史家。1951年生まれ。共同通信社ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長、青山学院大学教授、関西大学客員教授など歴任。著書に『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社)、『それでもなぜ、トランプは支持されるのか――アメリカ地殻変動の思想史』(東洋経済新報社)など。訳書にフランシス・フクヤマ『政治の衰退』(講談社)など。

2025年7月号(最新号)

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