【TBS「報道特集」】SNS選挙と熱狂のかげで

曺琴袖(TBS「報道特集」編集長)
2025/06/06
HPより

ソーシャルメディアの変貌

 「ソーシャルネットワークは、そもそも何をするものなのでしょうか。それは友人達が投稿したコンテンツを見て楽しむデジタル上の集いなど、人々をオンラインでつなぐウェブサイトを指していました。しかし、この10年でソーシャルメディアは、従来のメディアにより近いものへと姿を変えてきました」

 Facebookの創業者、マーク・ザッカーバーグ氏が、今年4月、アメリカ連邦取引委員会(FTC)の独占禁止法違反をめぐる裁判で、Facebookはもはや家族や友人との交流の場ではなく、商業コンテンツを含めた世界的なトレンドを追うためのツールになったことを証言した。ソーシャルメディアは「Social(社交的)なものではなくなった」と示唆したのだ。

 日本における“2024年”は、ソーシャルメディアを駆使して結果を出した政党や政治家が注目を集めた「元年」であった。その背景について、選挙期間中の公正さを意識するあまり、過度に報道を自粛してきたオールドメディアの報道姿勢にあるとする指摘も多く、「オールドメディアの敗退」と位置付けられた。

 想像をはるかに超えるスピードで拡大してきたソーシャルメディアの勢いに、周囲の取材記者が戸惑いや屈辱を感じていることも伝わってきた。だが私には、それが若い人たちの政治参画や既存政治への不満を示す萌芽にも思えて、その“純粋さ”を歓迎する気持ちも大きかった。

 というのも、「報道特集」制作の参考にとSNSチェックを欠かさず、移動の時間は必ずYouTubeの時事ネタ番組をイヤフォンで聞いている……、そんな「ニューメディア」にどっぷり浸かる私は、2年くらい前からその界隈で囁かれている、選挙についての“希望的観測”を頻繁に耳にしてきたからだ。曰く、お金のかからないソーシャルメディアの存在が選挙を根本的に変革し、看板・地盤・カバンを持たない新しい政治家の誕生を促し、世襲政治家が政界の中枢に君臨する、硬直化した日本政治の風景を一変させる……。

曺琴袖

(チョ・クムス)TBS「報道特集」編集長。1970年京都府生まれ。1995年TBS入社。外信部、ニューヨーク支局記者、報道特集ディレクター、「あさチャン!」「ひるおび!」のプロデューサーを経て、2020年7月から現職。

2025年6月号(最新号)

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