【書評】『旧ユーゴの自主管理社会主義——理想・破綻の原因・結果』

『地平』編集部
2025/06/05

 働けど暮らしは楽にならず、将来など考える余裕もない……。そんな苦しみが広がるにつれ、資本主義への批判も珍しいものではなくなった。アメリカではバーニー・サンダースらの「社会主義」が人々の心をとらえて久しいが、社会主義の印象が悪い日本でも、地域や労働現場で自治的に、資源を共同管理しようとする試みがあちこちにある。

 もっとも、資本主義に替わるシステムについて、かつてのように熱心に議論が交わされているようには見えない。そんな話は机上の空論に終わるだけかもしれない。しかし少なくとも、過去に試みられた代替案を検討することは、未来のために教訓を引き出す有意義な方法であるはずだ。

 本書は、ソ連型体制とは一線を画した旧ユーゴスラヴィアの自主管理社会主義について、その歴史をコンパクトにまとめたもの。上意下達の生産計画ではなく、各労働現場の決定によって生産や分配などを組織しようとしたのがユーゴの社会主義だった。それがどのように制度化され、どのような経過を経て失敗したのかがテーマといえる。

 たとえば、ユーゴでは銀行の意思決定が事実上、借り手企業の支配下にあったという。企業はリスクを気にせず投資する一方、消費財生産は不足し、高インフレと対外債務が避けられなかった。物価管理や信用創造のような、各生産単位の決定に任せるべきでない機能まで、自主管理の名のもとに放棄または分権化した結果といえるかもしれない。理想論も全否定も超えた議論に役立つ一冊。(亮)

〈今回紹介した本〉
『旧ユーゴの自主管理社会主義——理想・破綻の原因・結果』
小山洋司、2025年4月、ロゴス、定価2090円(税込)

『地平』編集部

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