2025年1日20日、トランプ氏が2回目の米国大統領就任を果たした。トランプ氏は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の最高指導者と首脳会談を行なった初めての米国大統領である。彼は、大統領就任早々に金正恩総書記に接触する意向を示しており、再度の首脳会談の実現に国際的な関心が高まっている。
しかし、重要なのは、会談が開催されるか否かではなく、会談がどのような結果を生むかである。両国首脳が、会談で米朝関係改善に向けた具体的な措置について合意できるのか、また、合意ができたとしても、その後、両国は合意を履行するのかという点が、特に重要である。
米国は、クリントン政権の1994年に「米朝合意枠組み」に合意し(米朝枠組み合意)、次のブッシュ政権の2007年に6か国協議(米朝中韓日露が参加)の枠組み内で、北朝鮮との具体的な関係改善措置で合意したが、合意の履行は中断され、米朝は敵対関係に戻り、北朝鮮は核兵器開発を再開し、現在に至っている。
両合意の履行中断について、日本では特に安倍政権が、北朝鮮の約束不履行が原因であると北朝鮮を糾弾し、そのような見方が報道を通じて広がった。しかし、履行状況を確認すると、北朝鮮より米国のほうが不十分であったことがわかる。では、なぜ米国はそのような対応をしたのか。その理由を理解することは、仮にまた米朝首脳会談が開催され、具体的な合意が形成されたとしても、それが履行されるのかどうかを見通すうえで鍵となる。
本稿では、これまでの米朝交渉を振り返り、米国が北朝鮮との敵対関係の解消、関係正常化に消極的であることを明らかにした上で、その要因を分析し、第2次トランプ政権における米朝関係の課題を検討する。その後で、日本政府が取るべき対応を考察する。
米朝枠組み合意と6か国協議合意
■米朝枠組み合意
1994年10月の米朝枠組み合意では主に、①北朝鮮が(プルトニウム抽出が容易な)黒鉛減速炉を含む核施設を凍結し、プルトニウム生産活動を中止すること、②米国が主導する事業体(後の朝鮮半島エネルギー開発機構=KEDO)が2003年を目標として100万キロワットの(プルトニウム抽出が困難な)軽水炉を2基建設するとともに、1基目の軽水炉の完成まで年50万トンの重油を供給すること、③軽水炉の完成に合わせて、北朝鮮は黒鉛減速炉を含む核施設の解体を完了すること、④米朝両国が政治的、経済的な関係の全面的正常化に向けて行動すること、⑤米国が北朝鮮に対して核兵器の使用やそれによる脅しをしない公式の保障を与えること、が合意された。
この合意が履行されていれば、北朝鮮の核問題は解決していたはずである。ところが、北朝鮮による核施設の凍結、北朝鮮への重油供給は履行されたものの、軽水炉建設は大幅に遅れ、米朝関係正常化も遅々として進まず、北朝鮮は苛立ちを募らせた。そのような状況で、北朝鮮はウラン濃縮計画に着手し、弾道ミサイル提供と引き換えにウラン濃縮用遠心分離機を入手するという取引をパキスタンとの間で始めた。それを察知したクリントン政権はその計画が初期段階であったため問題にしなかったが、2001年1月に発足したブッシュ政権はKEDOによる重油供給を2002年12月から停止させた。それに反発した北朝鮮が核施設の凍結を解除し、約8年間収束していた核問題が再燃した。重油供給の停止が核施設凍結解除につながることは容易に予想でき、KEDOへの最大出資国である韓国、第二の出資国である日本は、米国の方針に当初反対したが、米国を翻意させることはできなかった。