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秘書の自殺――発表内容と処分
パワハラや過重労働はなかった。だが、その調査内容は非公開とする――。
本連載で、茨城県の副知事を担当する秘書が2024年10月20日に自殺し、それが副知事によるパワハラが原因である可能性について報じた。茨城県庁には副知事が2人いることからも真相究明は必要不可欠だと指摘した掲載号が2月5日に発売。その1週間後の12日、これまで重く口を閉ざしていた県は急転直下、記者会見を行ない、飯塚博之副知事に厳重注意の処分を下したことを発表した。
委員長に根本信義・茨城県弁護士会元会長を据えた第三者委員会が設置され、調査委員は金丸隆太氏(公認心理士、茨城大学准教授)、岩村道子氏(弁護士)、皆川雅彦氏(社会保険労務士)の合計4人。調査方法は、①遺族や関係職員からの聴き取り調査、②当該職員の業務PCデータの内容確認、③当該職員の時間外勤務状況、④当該職員が業務上で使用していた公用携帯や通信アプリの通信履歴の確認、など。
この調査の結果、パワハラと過重労働はなく、職場の対応にも特に問題はなかった、と公表したのだ。飯塚副知事は最も軽い「厳重注意」処分を受けた。また、「職員死亡の原因が職場環境にあると遺族から疑念を持たれ、第三者委員会を設置して調査をしなければならない状況を招いた」として、秘書課長も厳重注意を受けた。
この処分と調査の手法、発表内容に対する疑問の声は大きい。2024年11月19日に自民党の常井洋治県議が茨城県人事委員会に対して調査を求める文書を提出。12月10日の県議会で立憲民主党の玉造順一県議が「調査をしているのか」と問いただしたが、県からの答弁はなかった。にもかかわらず、今年2月になって初めて第三者委員会の「茨城県の職場環境等に関する調査委員会」を24年11月26日に設置していたとして、25年2月7日までのわずか2カ月半の間に10回もの委員会を開催して調査を行なったというのだ。「遺族の意向」を理由に、調査内容は非公開。調査は検証もできず、私用のパソコンや携帯電話も調査していないのであれば、不十分だ。
県秘書課に尋ねると「遺族の意向があり委員会の設置自体を非公開にしたため、12月の県議会で答弁しませんでした。処分にあたり、遺族の了承を得た範囲内での公表となりました。委員会が調査対象を議論したなかで個人の携帯電話があったかどうかも、答えられない」と説明した。
不透明な調査委員会
秘書の自殺について真相究明を求めてきた自民党の常井議員は、こう話す。
「調査委員会は秘密裡に行なわれ、唐突な報告で理解に苦しむ。職員の死因についての言及がなく、事故死なのか病死なのか自死なのか、いずれを前提にするかで結果はまったく異なり、調査委員会のいい加減さを物語っています。調査内容について遺族が納得して受け入れたのかも分からず、調査委員会の議事録の公開は必須だ。職員の全調査を実施しなければ大井川和彦知事のパワハラ体質はあぶり出せない。飯塚副知事や秘書課長の処分だけで、最も重要なはずの大井川知事の責任に言及することなく、いとも簡単に幕引きとなっては、亡くなった職員が浮かばれない」
共産党の江尻加那県議も、こう指摘する。
「ご遺族からいつどのような形で調査の依頼を受けたのか、遺言があったのか、生前に家族にパワハラについて話していたのか、そして県はどのような調査をしていたのか。大井川知事の責任は問われないのか。疑念しか持てません。調査内容を非公開にしたことで、疑念は晴れないどころか、不信が高まるばかり。これでは県に助けを求め相談しようと思った人が諦めてしまいかねない。『パワハラ、忖度、非公開』が茨城県政に蔓延して職員を追い詰めてはいないか、あらためて大井川知事の責任を問うべきです」
なかったとされるパワハラについて県が処分を行なったことになるが、記者会見翌日の毎日新聞(茨城県版)に「飯塚氏は秘書への対応について『声をあげたり、物を投げたりしたことは一切していないと思う』『強い当たりはなかったと思うが、全くなかったとまでは言い切れない』と説明」と書かれ、朝日新聞も同様に報じた。疑問を残したまま秘書自殺の問題が事実上、封印されようとしているが、こうした命の重さを軽視する姿勢は教育施策にも現れている。