【連載】ルポ イバラキ (第3回)メディアのチェック機能はどこへ?

小林美希(ジャーナリスト)
2025/02/05

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千鳥会――地域政財界が新年から一堂に

 今年1月8日、水戸市内のホテルで茨城新聞社が主催する賀詞交歓会「千鳥会」が行なわれた。例年1000人もの地域政財界の代表者が参加する、茨城県内で最大の賀詞交歓会だと言われている。茨城新聞社の沼田安広社長や水戸市長である高橋靖氏など8人が世話人になり、大井川和彦知事は来賓3人のうちの一人として挨拶した。

 千鳥会が開催される当日の茨城新聞には1面を使って出席予定者が掲載される。国会議員、県議会議員、市町村長、市町村議会議長、そして業界団体の代表者や企業の代表者が名を連ねる。茨城県議会議長の西野一氏は来賓。自民党の額賀福志郎・衆議院議長、参議院議員で経済産業兼内閣府政務官の加藤明良氏など、自民党を中心とした県議40人以上も出席予定者として紹介された。

 千鳥会が行なわれた翌日の茨城新聞には、1面の記事のほか見開き2ページを使って「各界の代表1000人」が参加したと記事が掲載され、「ステージでは大井川知事や世話人らが鏡開きをして新年を祝い、高橋市長の発声で乾杯。笹島律夫県経営者協会長が中締めを行った」などと、当日の様子を詳細に伝えている。

 賀詞交歓会とは主にビジネス関係者が集まって新年の挨拶や名刺交換を通して交流を深める宴だ。企業や自治体、業界団体などが開催することもあるが、メディアは取材の一貫という立ち位置で参加するのが一般的だろう。関東地方には地方紙が7紙あるが、茨城新聞のほか上毛新聞(栃木県)と埼玉新聞も1000人規模の賀詞交歓会を行なっている。千葉日報は600人規模で行ない、参加希望があれば県内外から申し込み可能。下野新聞は会員組織「しもつけ21フォーラム」との共催で県内企業経営者など会員ら170人が集まる賀詞交歓会を行なっている。

 報道機関は行政などの権力に対して独立していることが求められ、権力を監視する役割がある。その報道機関が行なう賀詞交歓会の世話人が現役市長であること、来賓が県知事、参加者に県議などの政治家が多いことの意味をどう考えるか。茨城1区選出の衆議院議員、福島伸享氏は「千鳥会は、マスコミ堕落の象徴だ」として参加しなかった。同様に何人かの議員も不参加の姿勢をとった。

 筆者は茨城新聞に対して千鳥会の模様を取材したいと申し込んでいたが、断られた。その茨城新聞について、他社の記者からだけでなく関係者からも「紙面に県政への忖度が表れているのではないか」という声が聞こえている。

県職員自殺を県内メディアはどう報じたか

 「副知事の秘書が死亡したこと、それが自殺である可能性が高いことを茨城新聞の記者は早い段階でつかんでいました。それにもかかわらず記事化にゴーサインは出なかった。結局は、県議会で質疑が出てから、他社も報じることになるということで記事になったのです」と、茨城新聞の関係者が明かす。

 2024年10月20日に副知事の秘書が死亡。自殺したと見られており、茨城新聞だけでなく大手各社が取材に当たっていたが、12月10日の県議会で質疑が行なわれるまで報じることはなかった。県議会で質疑のあった翌日の新聞を見比べてみると、茨城新聞の関係者が「忖度ではないか」と言う理由がうかがえる。

 まず新聞の見方の一つとして、見出しの取り方でその記事の重要性をどう判断しているかが分かる。見出しが一段に留まるものは「一段見出し」と言われ、「二段見出し」「三段見出し」という順に段を多く使うほど見出しが目立つため、重要な記事として扱われていく。

 毎日新聞は「副知事の男性秘書死亡」と三段見出しをつけ、本文で「関係者によると自殺とみられ、第三者による調査委員会を設置し、死亡と業務の因果関係を調べている模様だ」と報じ、さらに「死亡した秘書は2022年度から秘書課に配属され、副知事の日程管理や業務の調整に当たっていた。複数の県関係者によると、副知事との業務上のやり取りについて秘書が悩んでいたという情報もある」と踏み込んだ。次に見出しが大きかった産経新聞は「県秘書課の男性係長死亡」と二段見出しで、「関係者によると、係長は主に副知事の業務を担当し、10月中旬に自殺しているのが見つかったという」としている。

 朝日新聞は「総務部職員死亡 県議会委で判明」という一段見出しで、「秘書課によると、死亡したのは同課所属の40代男性職員」、「亡くなった男性職員は副知事付だった。死亡する前週まで、通常の勤務を続けていたという」とまとめている。茨城新聞も一段見出しに留まった。記事中では、「副知事」とも「秘書」とも書かれず、「県幹部の関連業務を担い」となっていた。茨城新聞の記者は60人。他紙より圧倒的に多い人員体制で取材に当たっており、記事の内容から、同社の関係者は「県庁に対して忖度が働くから、役職や本人の職務をぼかしたのでは」と疑問をもつ。

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小林美希

(こばやし・みき)ジャーナリスト。1975年茨城県生まれ。『エコノミスト』編集部を経て2007年よりフリーのジャーナリスト。著書に『ルポ 保育崩壊』『ルポ看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『ルポ 中年フリーター』(NHK出版)、『年収443万円』(講談社)、『ルポ 学校がつまらない』(岩波書店)など多数。

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