【連載】ルポ イバラキ (最終回)イバラキが変われば日本が変わる

小林美希(ジャーナリスト)
2025/05/08

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 「思いつきの、ごじゃっぺ県政」――。

 政界、経済界、教育界など各界から聞こえる大井川和彦・茨城県知事に対する評価の一部だ。ちなみに、「ごじゃっぺ」とは代表的な茨城弁で、「でたらめ、いいかげん」という意味である。ほかにも、「思いつきの、ぶん投げ県政」「思いつきの、思い上がり県政」と続く。「行政でなく企業経営。だが、民間企業でもあれだけのワンマンは通用しない」など厳しい見方が少なくない。

 大井川県政7年半を振り返る。2017年の夏に初当選した大井川知事は、2019年になると記者会見で突然、「知事案件」を発表するようになる。日立市の「かみね動物園」へのパンダの誘致、大洗町の「アクアワールド茨城県大洗水族館」でのジンベエザメの展示、「ひたちなか大洗リゾート構想」も打ち出したが、それぞれ実現していない。

 旧水戸藩主の徳川斉昭によって「民と偕に楽しむ」と作られた偕楽園(水戸市)は、県外在住者の入園が有料化した。歴史的な建造物であった知事公舎は大井川知事の下で老朽化を理由に取り壊されて土地は売却。跡地にはスーパーが建った。県立中央図書館には、入り口正面の目立つ場所に全国チェーンの「星乃珈琲」が入り、開店日には大井川知事がテープカットに参上するほど。県民のなかに「大切なものが壊されていく」という不安が覆いはじめた。

小林美希

(こばやし・みき)ジャーナリスト。1975年茨城県生まれ。『エコノミスト』編集部を経て2007年よりフリーのジャーナリスト。著書に『ルポ 保育崩壊』『ルポ看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『ルポ 中年フリーター』(NHK出版)、『年収443万円』(講談社)、『ルポ 学校がつまらない』(岩波書店)など多数。

2025年6月号(最新号)

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