【連載】第三者の記(第4回) 警察特権

小笠原 淳(ライター)
2025/03/02

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 その裁決の日付が私の56回目の誕生日になったのは、単なる偶然だ。

 《処分庁が、審査請求人に対して行った本件処分を取り消す》

 歳を重ねると、時間が経つのが速くなる。半年、1年は文字通りあっという間だ。とはいえ上の決定が伝えられるまでの1年半あまりは、いくらなんでも長過ぎた。その日ようやく可否の結論に到ったのは、鹿児島県警察への公文書開示請求。1年半前、当時54歳の私は、同県警が警察官の法令違反を適切に捜査していたかどうかを検証できる公文書の開示を求め、定まった請求の手続きをした。

 県警は当初、その情報を出し渋った。具体的には、文書があるかどうかをあきらかにしないという決定を出した。納得できない私は不服を申し立て、県の第三者機関に審査を求めた。その結果、不服が認められて開示決定のやり直しが決まった。冒頭に採録した一文は、県警を監督する公安委員会が発出した裁決文だ。末尾にある「取り消す」の一句は、開示を拒んだ「処分庁」つまり県警の判断が誤っていたことを意味する。裁決には拘束力があり、県警はこれに従わなくてはならない。

 当然の結論といえる。役所の情報は役所の所有物ではなく、国民の財産。現場の胸三寸で不都合な情報を隠すような対応は許されない。時間がかかったにせよ、真っ当な決定を得られたことは喜ぶべきだ。

 と、言いたいところだが、まだ素直に喜ぶわけにはいかないのだった。本稿執筆中の2025年2月中旬現在、鹿児島県警はなお公開すべき公文書を開示しておらず、その時期がいつごろになるのかの目途も示していない。

 遠からず、最初の文書開示請求から丸2年が過ぎることになる。

鹿児島県警の公文書不開示決定を取り消した裁決書提供筆者

託された公文書開示請求

 昨年6月に表面化した、鹿児島県警の不祥事隠蔽疑惑。それを告発する匿名投書を受け取ることになった私は、実はその前年から同県警と浅からぬ縁があった。のちに投書の受取人、即ち「第三者」と呼ばれることになる札幌のライターは当初、公文書開示請求の請求人として県警とやり取りを重ねていたのだ。きっかけは、日常的に記事を寄せているウェブニュースの編集部からの電話だった。

 「道警でやってるような請求、鹿児島県警にもやってみたらどうですかねえ」

 福岡のニュースサイトHUNTER(ハンター)の編集長・中願寺純則さんからそう持ちかけられたのは、2023年2月初旬のこと。

 「今度そちらへドサッと書類送りますから、ちょっと検討してくれませんか」

 ほどなく、レターパックでA4判紙の束が送られてきた。言葉通りドサッと、120枚ほど。何の書類なのかは、数枚めくった時点ですぐにわかった。鹿児島県警が職員の懲戒処分などに際して作った台帳、つまり警察官の不祥事の記録だ。先の電話をくれた中願寺編集長が県警への公文書開示請求で入手したもので、この時点で過去5年間分の記録が揃っていた。

 分厚い束にざっと眼を通すと、あきらかに法令違反にあたるケースがいくつも含まれていることがわかった。たとえば次のような事案だ。

《児童買春をした》…2020年3月19日「免職」
《知人に傷害を負わせた》…21年7月30日「訓戒」
《住居侵入等をした》…21年8月6日「免職」
《業務上横領をした》…22年3月24日「免職」

 これらに加えて「交通違反」は毎年欠かさず記録され、また年によっては「失火させた」「みだりにゴミを捨てた」「拳銃を不正に使用した」など、やはり法令違反が疑われる不祥事がいくつか記録されていた。

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小笠原淳

(おがさわら・じゅん)ライター。1968年11月、北海道小樽市生まれ。小樽商科大中退。「札幌タイムス」記者を経て現在「北方ジャーナル」「ニュースサイトHUNTER」などに執筆中。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート)。札幌市在住。

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