【連載】ルポ 世論工作――原発と情報統制(5)子どもと親を狙え

野池元基(「東京電力福島第一原発事故に関わる電通の世論操作を研究する会(電通研)」メンバー)
2026/07/16
Catalog page showing four colorful Japanese comic-style newspaper inserts about radiation facts, with speech bubbles and characters.",

原発事故は収束?──大展開された全面広告

 まるで福島第一原発事故がほぼ収束したかのような、手紙調の文面のカラー全面広告を福島県が全国紙五紙(朝日・読売・毎日・産経・日経)と地元二紙(福島民報と福島民友)に掲載したのは、原発事故から5年後の2016年3月12日である。広告は、「あなたの思う福島はどんな福島ですか?」と問いかける。「避難区域以外のほとんどの地域は、日常を歩んでいます」と述べて、つづける。

お時間があれば今度ぜひいらしてくださいね。
ふらっと、福島に。
いろいろな声によって誇張された福島はそこにはありません。
おいしいものが、きれいな景色が、知ってほしいことが、たくさんあります。

Japanese newspaper spread with a blue-tinted background and a large headline asking, “What kind of Fukushima is yours?” followed by column text and a red cartoon figure at the bottom-right corner.

 来て、食べて、知ってほしい――原発事故にはひと区切りがつき、次のステージに福島県は進む。全国に向けて、そういう印象をアピールする広告といえる。これは2017年12月に復興庁が政府方針として打ち出す「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」(以下、強化戦略)の3つのスローガン「知ってもらう」「食べてもらう」「来てもらう」に先んじる「安全」宣言でもある。

 全国五紙に同一の全面広告を載せる広報事業は、これまで私の情報開示請求によって開示された14年分の文書では、他に例がない。しかも、同じ全面広告を、このうちの四紙の系列雑誌「AERA」「婦人公論」「サンデー毎日」「ecomom」にも載せている。それ以外に、札幌、東京など5都市の主要駅で、この広告をポスター化して貼り出した。

 見積書によれば、掲載料の最大額は朝日新聞の約3880万円で、次が読売新聞の約3600万円、日経新聞の2000万円とつづく。事業費の総額は1億5120万円にのぼる。この一部には、クウェート国からの東日本大震災への人道的な救援金も充当された。地元紙である福島民報と福島民友への掲載料はこれとは別途、県の通常の広報費から支出されている。

 この事業名は「チャレンジふくしま『全国へ感謝を伝え共感の輪を広げる』事業」という。委託先は電通東日本(電通グループ)である。県と電通の契約日から新聞広告の掲載までは、たった20日間だった。

 原発事故や復興にかかわって、この当時、電通がどのような広報事業を請け負っていたのか。たとえば、2016年度の発注元ごとの事業名は次のとおりだ。

・福島県……オリンピック・パラリンピック機運醸成イベント催行業務/チャレンジふくしま(新生! ふくしまの恵み発信業務)/チャレンジふくしま(新聞シンポジウム業務)、/ダイヤモンドルート周遊促進事業、他に3事業

・環境省……除染・中間貯蔵広報業務/放射性物質汚染廃棄物等の処理に関する啓発普及等支援業務

・資源エネルギー庁……廃炉・汚染水対策等に係る広報強化対策事業

・復興庁……東日本大震災からの被災地復興に向けた情報提供と復興施策の理解促進事業

・福島市……福島産農作物に係る首都圏及び阪神地区向け交通広告掲出業務、他に一事業

・いわき市……いわき産農林水産物風評被害対策業務

 発注元には、県内の他の自治体の名前も見られる。年度は異なるが、伊達市は2014年度、「心の除染」として知られる「低線量地域詳細モニタリング事業」を発注しており、飯舘村も「マスコットキャラクター制作業務」を2017年度に発注している。

 このなかの福島県の「新聞シンポジウム」というのは、タレントを起用し、福島県産の農産物をPRするシンポジウムで、県と新聞社が共催で実施した。東京では読売新聞社、関西では朝日新聞社と組んだ。「『日常の安心』の世の中化を梃子にネガティブ層の態度変容を徐々に促す」などが方針。両新聞ともこのイベントを採録記事にして全面広告として、同じく「婦人公論」「AERA」においても掲載した。事業費は6億円である。

 なお、福島県は前年度も新聞シンポジウムを開催している。こちらは朝日・読売・日経の三紙と、それぞれに共催。イベントと全面広告をセットにしている。「新生!ふくしまの恵み発信業務」はタレントグループのTOKIOを起用したテレビCMが中心である。

 環境省の「除染・中間貯蔵広報業務」では、CM・広告は福島の地元メディアを通し、前号で詳細を報じた除染情報プラザは、専門家を派遣して「安全・安心」を地域に浸透させる業務を続けた。もう一本の「廃棄物処理」にかかわる広報は、栃木県と宮城県での最終処分場の選定への理解を求めるPRが主で、地元メディアへの新聞広告とCMだった。栃木の下野新聞には3種の全面広告が計5回掲載されている。

 福島市の交通広告業務は、首都圏を走る京浜東北線などでADトレイン――車内広告が丸ごと「福島の桃」という列車を走らせるもので、継続的に実施されている事業だ。

 これらの事業費の総額は約30億である。

 こうして福島と中央のマスメディアをバランスよく使いながら、「安全・安心」を浸透させてきたのである。

子どもをターゲットにした安全PR

 原発事故直後から現在まで、15年間にわたる世論工作のなかでは政治的に大きな転機が何度かあった。その最初が、復興庁が2017年12月12日に決定・公表した「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」である。

野池元基

「東京電力福島第一原発事故に関わる電通の世論操作を研究する会(電通研)」メンバー。長野市在住。農業に携わりつつ、雑誌『たぁくらたぁ』を編集発行。福島原発事故に関する電通事業の情報公開請求活動で日隅一雄・情報流通促進賞2021大賞受賞。著書に『サンゴの海に生きる』(農文協)、共著に『環境を破壊する公共事業』(緑風出版)など。

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