【書評連載】後ずさりして前をみる(第2回)夜を燃やそう──1960年代ロサンゼルス

酒井隆史(大阪公立大学教授)
2025/05/07

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 2022年のマイク・デイヴィスの死は、いささかドラマティックなものだった。当時76歳のかれは、食道ガンの治療を中断したこと、緩和ケアを開始したこと、推定余命が1年もないことが「公表」(当人のあずかり知らぬところでツイッターで)されていたのだ。それによってかれのもとには「愛読者」からのメールが殺到することになる。「頑迷なイノベーター」というべきか、このまごうことなき稀代の知性は、その生命の燃え尽きる最後の一瞬を人びとと共有したのだった。

 死を目前にしての『ガーディアン』紙における最後のインタビューでかれは、「作家がとかく陥りがちなトラップ」、すなわち「死後にありがたがられる末期の言葉や死をめぐる長尺エッセイで重みづけをしたがる」悪癖を回避したいといつものごとく皮肉っている。それでもかれは、「刺さる」言葉をいくつか残してしまった。

 たとえば、「もし、わたしとおなじように、あなただって[1960年代の]公民権運動、反戦運動を経験したならば、けっして希望を手放すことができなくなるとおもいますよ。わたしは人生のなかで社会的な奇蹟をみたのですから。闘争でふつうの人たちがみせる勇気のことです。それがわたしを驚嘆させたのです」といったような。

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酒井 隆史

さかい・たかし 大阪公立大学教授。専攻は社会思想史。1965年生まれ。著書に『賢人と奴隷とバカ』(亜紀書房)、『負債と信用の人類学 : 人間経済の現在』(共著、以文社)、『四つの未来 :〈ポスト資本主義〉を展望するための四類型』Frase Peter、以文社)、『通天閣――新・日本資本主義発達史』(青土社)、など多数。

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