【連載】ルポ 世論工作――原発と情報統制(4)地域に浸透する

野池元基(「東京電力福島第一原発事故に関わる電通の世論操作を研究する会(電通研)」メンバー)
2026/07/03
Handwritten Japanese notes with large kanji characters and scattered small text, looks like a page of notes or a draft (date 10/13 visible).

 本連載ではここまで、原発事故後、マスメディアを動員した世論工作を取り上げてきた。だが今回は、地域コミュニティの日常の中に入っていき、被ばくは心配することはないのだと教示し、「安全・安心」の世論形成を進めてきた存在を取り上げる。「除染情報プラザ」である。環境省が2012年に設置した。

 この教化活動はじわじわと行なわれ、〝地味〟で目立たないことが特徴でもある。報告書に記されている取り組み経緯を追ってみても実体がつかみにくい。施策の中心にあるのは専門家派遣の業務だ。その役割を理解するためには、原発事故を矮小化するプロパガンダの始まりにまで遡り、そこからの流れの中で位置づけるのがよさそうだ。

「大至急」のファックス

 始まりは、2011年3月16日夕方、「直ちに人体に影響を及ぼす数値ではない」と繰り返し述べた、当時の枝野幸男官房長官の記者会見である。

 前日の15日午後、福島第一原発の2号機から漏れ出した大量の放射性物質を含んだプルームが北西方向へ流れ、浪江町や飯舘村、川俣町、伊達市、福島市などを広範に汚染していた。

 その日の夜、SPEEDIの計算結果を参考にした文部科学省非常災害対策センター(EOC)が緊急派遣した放射線モニタリング班の二人が福島第一原発から北西へ20キロ余りの地点、浪江町で毎時330マイクロシーベルト(平常時の約6600倍)に達する空間線量を測定した。マジックハンドで放射性物質を扱う空間の放射線量である。そこに3時間あまり留まれば、被ばく線量が1ミリシーベルトに達する。携帯電話がつながらず、二人は福島市へ引き返す途中、川俣町の山木屋郵便局近くの公衆電話から、この数値を含め、測定3地点の線量を東京のEOCに報告した。午後9時26分だった。

 日付が変わって16日午前1時05分、文科省は3地点の測定値をプレスリリースし、ウェブサイトにも掲載した。しかし、測定地点の地名は明らかにせず、線量がどれほどの値なのかという説明もしなかった。地元自治体である浪江町にも伝えないままだった。

 そして16日午前10時36分、330マイクロシーベルトの放射線量について、人体への影響を問う報道陣に対し、文科省の担当者は「官房長官の指示でコメントできない」と話した(『福島原発事故 タイムライン 2011‐2012』宮﨑知己・木村英昭・小林剛著、岩波書店)。

 筆者の手元に、この経過にかかわる、文部科学省所管の法人である当時の放射線医学総合研究所(放医研)から情報開示された2枚のファックスがある。3月16日午前10時13分、官房長官が文科省を介して放医研に緊急連絡を入れた、「大至急」と太字書きのある1枚と、官房長官が放医研に助言を求めた内容が記されている1枚(午後2時17分の記載がある)である。何を助言として求めたのか。午後のファックスには、こう整理されている。

12:30 枝野官房長官より、文科省から報告されてくるモニタリングの数値についてその意味などにつき、助言を求めたい。
情報発信(会見内容を含む)の内容につき、助言を求めたい。
国民に過度の不安を与えないことを旨としたい。一方で何らかの対策が必要であれば遅滞なく対策を取れるようにしたい。
今後の事故に係わる放射線の影響について、情報を発信するに当たり国からの情報発信の内容につきその伝え方についても助言を求めたい。

 この開示文書には付箋がつけてあり、「本文書に基づく回答文書や対応内容のメモ等の有無も確認したが該当する文書はなかった」と情報公開担当者のコメントが記されていた。しかし、この文面を読むかぎりでは、記者会見を前提にした相談が行なわれたと考えるのが自然だろう。

提供筆者

 これに関する未発表の情報はないのか。朝日新聞の調査報道ルポ「プロメテウスの罠」の取材班代表で、330マイクロシーベルトの測定者についての記事も書いている依光隆明氏(現在、NEWS KOCHI編集長)に、ファックスの内容についてご存じですか、とメールで問い合わせた(2024年1月)。返事はすぐ戻ってきた。

野池元基

「東京電力福島第一原発事故に関わる電通の世論操作を研究する会(電通研)」メンバー。長野市在住。農業に携わりつつ、雑誌『たぁくらたぁ』を編集発行。福島原発事故に関する電通事業の情報公開請求活動で日隅一雄・情報流通促進賞2021大賞受賞。著書に『サンゴの海に生きる』(農文協)、共著に『環境を破壊する公共事業』(緑風出版)など。

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