【田原総一朗さんに聞く】スパイ防止法と高市政権――日本の言論の現在地を問う

月刊『地平』編集部
2026/03/03

言論の自由の現在地

聞き手 熊谷伸一郎(本誌編集長)——いま政府は、スパイ防止法などを含めて、言論や思想にかかわる取り締まりを強めようとしています。言論の自由はどうあるべきだとお考えですか。

田原 政府が取り締まりをしようとするのは、ある意味で当たり前だ。国家というのはそういうものだから。何もかも野放しにしていたら、権力はもたない。だから取り締まろうとする。

 それに対して、言論の自由を大事にしろというのも当たり前だけど、政府は基本的に何もするな、ということか。

——公共の福祉に反しない限りでの自由という建前はありますが、思想そのものを問題にしていく流れを感じます。

田原 「公共の福祉に反する」という言い方も、いくらでも作ろうと思えば作れる。思想を問題にしはじめたら、どこまででも取り締まれる。スパイ防止法なんてその典型。今のアメリカもそうだけど、言論の自由を壊すような動きはある。でも、それに対する反発が起きることがむしろ大事だ。反発しなきゃいけない。権力が言論を抑え込もうとしたら、逆に声を上げる人が出てこなきゃいけない。

 僕は言論人として、なんでも自由に発言する。政府から圧力を受けてもかまわない。そういう覚悟がなきゃ、ジャーナリストじゃない。

権力との距離感

——いまのメディアの雰囲気はどう見ていますか。

田原 正直に言って、忖度なく発言する人間は、あまり歓迎されなくなってきた。信用されない。でもね、政府と一体になって審議会に入ったり、自分たちで決めたことを自分たちのメディアで報道したりするほうが、よっぽど信用できない。

——最近は、メディアの人間が審議会に入り、政府と近い距離で動くことが普通になっています。

田原 それはメディアの役割じゃない。政府と距離を保つのが仕事だ。審議会に入れば地位も得られるし、収入も安定する。あなただって、損するよりは得をしたほうがいいでしょう。でも僕は、あらゆる地位を断ってきた。

——読者や視聴者が求めているのは、まさにその距離感だと思います。

田原 そう。でも、それを貫くのはどんどん難しくなっている。メディアの中でも、そういう人間は支持されなくなってきた。だから頑張らなきゃいけない。

——なぜ、そうなってきたのでしょう。

田原 結局は損か得かだよ。人間は得になることを選ぶ。損になることはやりたくない。でも僕は、それを考えない。言うべきことは言う。官房長官の機密費を断ったことがあるけど、あれも損得じゃない。ジャーナリストとして当然のことだと思っただけだ。

 最後は個人の覚悟。それがなくなってしまえば、メディアは広報機関になる。何のためにメディアがあるのか。この国を滅ぼそうなんて誰も思ってない。言うべきことを言うのがメディアの仕事だ。

——紙のメディアは読まれなくなっているとも言われます。

田原 僕は新聞は全国紙を全部読むし、雑誌もたくさん読む。活字はまだ力を持っている。

 ナショナリズムと言論

——高市政権のもとで、日本の政治は大きく動いています。アメリカとの関係はどう見ていますか。

田原 アメリカとは付き合うしかない。喧嘩して勝てる相手じゃないから。でも、アメリカはいま、デモクラシーを大事にする国じゃなくなりつつある。今の大統領は「デモクラシーでは世の中は変えられない」と本気で信じている。でも、それを支持したのはアメリカ国民。トランプ政権と向き合うのは簡単じゃない。でも逃げられない。そういう中で、高市首相はトランプと積極的に付き合おうとしている。そこははっきりしている。そこにどういう戦略があるのか、直接聞いてみたい。

——中国やロシアとの関係については。

田原 今のロシアと関係を築いていくというのは、可能性がない。でも中国とは付き合うべきだと思う。僕は習近平は説得できると思っている。可能性がある国だ。日本の世論は中国に厳しいけど、可能性があるかどうかが大事なんだ。ロシアにはそれがない。

——スパイ防止法や対外情報機関の強化、参政党の動きなどについてはどう考えますか。

田原 メディアや思想の取り締まりを強化する方向には絶対に賛成できない。参政党は日本中心主義だ。ナショナリズムが強くなれば、言論は必ず萎縮する。グローバルな視点を失えば、日本は孤立せざるをえない。

——メディアとジャーナリストの責任が、ますます重くなりますね。

田原 そう。だからこそ、忖度したり怖がったりせずに、言うしかない。支持されなくても、嫌われても、言う。それがジャーナリストの仕事です。

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