河合弘之 (かわい・ひろゆき)
弁護士。一九四四年生まれ。脱原発弁護団全国連絡会の共同代表として全国の原発訴訟を牽引してきた。著書に『東電役員に13兆円の支払いを命ず!─東電株主代表訴訟判決』『原発訴訟が社会を変える』など。
「世論」に迎合する司法
(聞き手 本誌編集長・熊谷伸一郎)——近年、原発の稼働をめぐって争われている裁判で、福島原発事故の反省と教訓を忘れたかのような判決が多く出されるようになっています。このような現状をどう考えればよいのか、まず、原発事故からの一五年間を全体としてどのように見ておられるか、おうかがいしたいと思います。
河合 原発に限ったことではないのですが、司法の動きは、国民の意識、かっこつきの「世論」によって左右される傾向があります。しかし、原発について言えば、その「世論」というものの正体は何なのかというと、原子力ムラの情報宣伝活動の影響が大きいと思いますね。
二〇一一年の事故のあと、裁判所にもしばらくは原発に懐疑的な傾向があり、それに沿った判決や決定が少なからず出ました。しかしその後、揺り戻しが強まってきて、きわめて反動的な判決が続く状態になっています。
大きく見れば、司法だけが悪いのではなく、要するに、原子力ムラの広範で強力な巻き返し活動によって「世論」が影響され、それに迎合する形で司法が強い影響を受けている。これがいまの状況だと思っています。
「一億総反省」から原発回帰への一五年
——民主党政権だった事故当時の状況から考えると、政治も変わっています。かつては脱原発依存という点で、自民党も含めてかなり広範な合意があったのではないかと思いますが、そこは大きく変わってしまいました。この政治の変化について、どう見ておられますか。
河合 福島原発事故の衝撃によって、いわば「一億総反省」みたいな状況になったわけです。あるいは「一億総恐怖」、原発事故の恐ろしさを皆が思い知った時期でした。その結果、いったんは七割、八割の人が原発に否定的な見解を持つという世論が出てきました。
しかし、原子力ムラのしぶとい巻き返しによって、この状況が次々に変えられていきました。その巻き返しの中核に存在するのは経産省と資源エネルギー庁です。そこが政治を動かし、電力業界など経済界の中枢部が「世論」を動かした。それがこの一五年の過程だったと思います。
「原子力ムラ」というのは、厳然として存在する日本の最大最強の利権組織です。ものすごく強固な結びつきのある集団です。この一五年間、原発訴訟で闘ってきて、その具体的なイメージをつかむことができた気がしています。そして、その強さの原因ははっきりしていて、原子力発電がもたらす莫大な経済的利益です。それは、単に利益が大きいというだけじゃなくて、その利益の一部を、継続的に、あらゆる方面に流しつづけているという点が決定的なんです。一時的にドーンと大金を出すんじゃない。ずっと出しつづけるんです。
マスコミでは、広告代理店の電通の中にある原子力専門部署が中心になって、そこから各方面に広告などの形でお金が流れる仕組みになっています。学者の世界にも、ずっと研究費を出しつづける。学生の就職の世話をしつづける。政治家には献金をする。官僚には天下り先を用意する。立地地域にも継続的にお金を流す。それは各方面で反原発の動きを抑えると同時に、原発推進の「世論」をつくっていくために継続的にお金を出していく構造です。
一つひとつはそれほど大きな金額ではない。でも、全部を足し合わせると相当な額になるし、何より「継続的に出しつづける」ということの力がものすごく大きい。これが原子力ムラの力の源泉です。









