関連:「特集 排外主義、再び」(2025年10月号特集)
この道は、もう進めない。狭くなるばかりだ。暗くて先が見えない。もうとっくに舗装もなくなった。
道の両側は崖っぷちで、ガードレールもない。操作を誤れば谷底に落ちる。後ろには戻れない。人生とは、バックができない運転だ。青い空を一直線につらぬく高速道路では、お金でお金を増やす投資家たちが、増えたお金の使い方に悩みながら快適なドライブを楽しんでいる。
仮に道から川底へ落下して、奇跡的に命をとりとめたとしても、その底からはどんな声も高速道路には届かない。同じように細い道に迷い込んだ人たちはだれも助けてくれない。そもそも高速道路の人びとは下道(したみち)で死にゆく私たちを見ない。獣道を選んだ私の判断力のなさ、就活で失敗した私の鈍臭さ。自業自得だと言われるのはわかっている。誰にこのつらさを伝えればいいのだろうか。いっそうのことアクセルを踏み込んでこの世界から消えていこうか。
あるお店の店主は言う。物価が高くなって価格を上げねばならない。コロナ禍がひと段落して戻ってきた客が離れ始めている。日本政府の税収は過去最大だというのに、私の払う税金はいっこうに減額される気配がない。食費も光熱費も下がらない。帳簿をつける時間が苦痛だ。議員たちは裏金づくりで税金不払い、大企業はタックス・ヘイヴンで租税回避。私たちは税金を一円単位で間違いないように計算。なぜ、政治家が税金逃れをしても辞職しないのだろう。祖父母の代から続くこの店も、そろそろ締めるときが来たかもしれない。