排外主義のもとの難民

石川えり(認定NPO法人 難民支援協会・代表理事)
2025/12/08

 「第二次世界大戦以降、最悪です」――私自身この言葉を14年以上にわたり繰り返し発している。「最悪」とは、世界で避難を余儀なくされた人の数だ。

 シリア、アフガニスタン、ミャンマー、ウクライナ、スーダン、ガザなど、多くの国と地域で紛争やクーデター、深刻な人権侵害などが起きて、逃れる人が増えつづけている。一方で難民が逃れる先の周辺国、先進国では受け入れについて厳しい風が吹いている。

 本稿では、世界で深刻化する難民等の状況、また日本を含む受け入れ国の状況と課題について考えていきたい。

激増する世界の難民

 表は、国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)が毎年発表する「世界で避難を余儀なくされた人の数」である。14年前の2011年は約4000万人強だったが現在は約3倍の1億2320万人となった(1)。日本の人口とほぼ同じ数の人々が今も自宅を追われ、逃げざるを得ない状況にある。

1 United National High Commissioner for Refugees (UNHCR), “GLOBAL TRENDS FORCED DISPLACEMENT IN 2024” 1 2 June 2025

 この統計は難民(UNHCR支援対象者、国連パレスチナ支援機構(以下、UNRWA)の支援対象者であるパレスチナ難民)、国内避難民(自国内で逃れている人)、庇護希望者(他国にて難民の申請を行ない最終結論を待っている人)、その他(無国籍含む国際的な保護を必要とする人)、に分類されている。

 分類としては自国内で逃れている国内避難民が一番多い。それは、国境を越えて他国へ逃れることがますます困難になっていることも主要な一因である。

 世界中で避難を余儀なくされた人全体の3分の1強を4カ国の出身者が占めている。最も多いのがスーダンの1430万人、シリアの1350万人、アフガニスタンの1030万人、ウクライナの880万人である。また、難民の73%が中低所得国に、また67%が周辺国に滞在している。難民の多くは先進国へ逃れるのではなく、経済的に豊かではない周辺国に滞在していることが圧倒的に多い。世界で最も多く難民が滞在しているのはイランの349万人、次いでトルコの294万人、ドイツの275万人である。

 以下、世界で最も避難する人数が多いスーダンと長年危機がつづくアフガニスタンについて概況を述べる。

■スーダン――世界最多の避難

 スーダンは世界銀行によると5045万人の人口の国であるが、その3分の1に近い1430万人がスーダン国内と隣国へ避難をしている(2024年末時点)。2023年の4月より軍と準軍事組織RSF(即応支援部隊)の武力衝突、およびダルフール地域における部族間暴力の再燃により、爆撃、襲撃、性的暴力、飢餓、疾病の蔓延に直面し15万人が命を落とし、数百万人が自宅を追われた。

 BBCによると軍とRSFの双方が戦争犯罪、集団虐殺(ジェノサイド)や集団性的暴力を含む戦争犯罪で非難されている。スーダンに住む人の多くが、安全な水、医療、住居といった基本サービスへのアクセスを著しく制限されており、3分の2が緊急の人道援助を必要としている。2025年10月末にはダルフール西部の主要都市ファシェルがRSFによって陥落した際、病院で460人以上が殺害されたと世界保健機関(WHO)が発表した。この都市は、以前より人道支援のアクセスが断たれ、70万人以上が飢餓状態にあるとされてきた。数百万人の子どもたちが深刻な食料不足に直面し、10以上の地域が飢饉の瀬戸際に立たされていると世界食糧計画(WFP)は警告している。

 日本政府もこの状況にかんがみ、2023年の7月に日本に暮らすスーダン人について、情勢不安を理由に日本国内にとどまりつづけることを希望した場合、緊急避難措置として就労可能な在留資格を許可すること、意思に反して送還されることはないことを発表した。2024年末において、この措置により42人が在留をしている。また、1人が難民、11人が補完的保護の認定を受けている(2)

2 出入国在留管理庁、「令和6年における難民認定者数等について」、2025年3月14日

■アフガニスタン――長期化した難民危機

石川えり

認定NPO法人 難民支援協会・代表理事。1999年の協会設立より参画。事務局長を経て現職。上智大学、一橋大学国際・公共政策大学院非常勤講師。

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