『地平』2025年11月号

熊谷伸一郎(『地平』編集長)
2025/10/07

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編集後記 

 パレスチナにおける虐殺をどうにかして止めなければいけない。イスラエルによるガザ侵攻はいっそう残虐さを増し、人為的飢饉が子どもたちをはじめとする生命を奪っている。

 9月下旬から始まった国連総会では、グローバル・サウスの首脳たちを中心に、イスラエルの蛮行への強い非難とさらなる行動を求める発言が次々に放たれた。国際社会は本気の怒りに包まれつつある。世界各地で大規模な抗議デモなどの行動が取り組まれ、前号で特別報告を掲載したアルバネーゼ氏も各地で発言を続けている。ここまで侮蔑され無視された国際法と人間性について、土俵際で崩壊を食い止めようとしている。

 支援物資を積んだグレタ・トゥーンベリさんたちの船団は、本誌の校了時点(2025年9月26日)では、ドローンによる攻撃を繰り返し受けつつも、地中海をガザへ向かって航海中だ。船団に参加した安村美香子さんへのインタビューは、緊急性のある内容のため「ウェブ地平」で公開している。

 なぜ、ここまでイスラエルは独善的で残虐なのか。その歴史的文脈を、赤尾光春氏の論考 「イスラエル極右とガザ〝戦争〟(下)解き放たれたパレスチナ征服の野望」で共有したい。イスラエル極右のイデオロギーは排外主義の極致である。「イスラエル・ファースト」のなれのはてともいえる。それがネタニヤフら政治屋の打算と結託して社会を覆ってしまった。パレスチナとの対話と平和を求めるイスラエル内の勢力は駆逐され、沈黙させられている。

 そして、日本が同じような状況にならないと断言できるほどの確信は、少なくとも私にはない。80年前までの日本は今のイスラエルと変わりはなかった。平和主義と民主主義の日本は、アジアへの侵略と植民地支配、国内における天皇制の圧政への反省があって成立している。それが戦後民主主義である。今また無反省と「日本ファースト」の政治勢力が伸張している。今号が刊行される頃には新首相となる自民党総裁が選出されていよう。誰になろうと連立を模索せざるをえないが、その相手が維新の会であれ国民民主党であれ、日本政治の針はまた少し右に振れることになるだろう。「スパイ防止法」はその象徴だ(海渡雄一論文参照)。

 今号では欧米における左派の復活を特集した。もちろん、特集の焦点は日本における左派の復活をどう構想するか、にある。困難だが不可能ではない課題と思う。今号特集を第1回として、今後も継続的に取り上げ、議論を進めていきたいと思う。

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熊谷伸一郎

(くまがい・しんいちろう)月刊『地平』編集長。株式会社地平社代表取締役。1976年8月生まれ。フリージャーナリストを経て2007年、岩波書店『世界』編集部に参加。2018年7月から2022年9月まで同誌編集長をつとめる。2023年7月、独立のため退職。著書に『なぜ加害を語るのか』(岩波ブックレット)、『反日とは何か』(中公新書ラクレ)、『金子さんの戦争』(リトルモア)、『私たちが戦後の責任を受けとめる30の視点』(合同出版)、坂本龍一氏らとの共著に『非戦』(幻冬舎)など。

2025年11月号(最新号)

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