イスラエルによる違法封鎖を超え、

ガザに物資を届ける国際船団

参加メンバー・安村美香子さんインタビュー

2025年8月31日、バルセロナを出港するグローバル・スムード船団。港には数千人の支援者が集まり、旗を振り、スローガンを唱えながら、連帯を示した。Photo by Wahaj Bani Moufleh/Middle East Images/ABACAPRESS.COM/共同
8月31日にバルセロナの港を出港する船団。Photo by global sumud flotilla
安村さんたちが乗った船。

イスラエルによるガザ侵攻が深刻化する中、8月末、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんらが乗った数十隻の船団「グローバル・スムード船団」が、ガザに支援物資を届けるため、スペイン・バルセロナを出航した。
イスラエルはガザへの人道支援物資の搬入を制限しつづけており、ガザの人々は深刻な食料・医療不足にさらされている。船団は、イスラエルによるガザの封鎖を破り、ガザの人々に海路で支援物資を届けようとしているが、イスラエル軍は度々船団への妨害行為を続けている。
9月17日、船団に日本人で唯一参加しているオランダ在住で長く環境問題に関わってきた安村美香子さんにオンラインで話を聞いた。
聞き手:熊谷伸一郎(本誌編集長)

安村さんたちが乗った船。
船上の安村さん。

9月末にガザへ

――いまはどのあたりを航海中でしょうか。

安村 9月15日の夜に北アフリカのチュニジアを出て、今、イタリアのシチリア島の近くです【10/2追記:10/2現在エジプトのアレクサンドリア沖を航海中】。8月31日にスペイン・バルセロナの港を出航してから、船に不具合が起きたりして、初めに乗った船では航行を続けられなくなってしまい、チュニジアで船を乗り換えて、再出発して、その後はいまのところ順調に進んでいます。

――問題が起きたというのは故障があったということですか。無人機による攻撃があったというニュースも報じられていますが。

安村 はい、攻撃もあったようです。ただ、私たちの船は、出航までの準備期間がとても短かったために、最後まで船が航海に耐えられるように整備するのが難しかったということです。今回集まっているすべての船が厳しい状況で参加しています。出発までに少し時間がかかったのは、どの船に誰と誰が乗るのか、さらに船の修理で手間がかかったためです。

――周囲にも同じようにガザに向かっている船があるのですね。

安村 はい、すぐ近くではないですが、もう少し前方に、かなり小さくしか見えませんが2、3隻はいて、そのさらに先に他の船団がおり、いま私たちもそこに合流しに行く途中です。

――船団同士では連絡は取り合っているのですか。

安村 そうですね。地上にもチームがたくさんいて、さまざまなリスクが考えられますから、今後の航路についてなど常に地上と他の船と連絡を取り合い、情報を共有しながら動いています。

――順調にいった場合、だいたいいつ頃にガザ沖に到着見込みでしょうか。

安村 スムーズにいけば2週間前後の航海で、今月末には付近に到着できる予定です。

――安村さんの船には何人乗っているのですか?

安村 世界各地から集まった8人です。バルセロナで誰がどの船に乗るかという船割りがあって、そこで初めて会った仲間と乗っています。

――ガザでは飢餓が深刻です。イタリアを出発する船には食料約250トンが積み込まれたという報道もありますが、安村さんの船はどのような物資を乗せていますか。

安村 食料と粉ミルク、医薬品です。日本の普通サイズの段ボールで14、15箱分を積んでいます。私たちの船は小さいほうで、45フィートほどのヨットなので、乗組員の食料などもあり、支援物資はそんなには積めません。それぞれの船の大きさによって詰めるだけの物資を運んでいます。

バルセロナ港を出港するグレタさん。By globalsumudflotilla
2025年9月3日。photo by globalsumudflotilla
Photo by global sumud flotilla

イスラエルによる違法な封鎖を打破する

――安村さんが船団に参加した経過はどのようなものでしたか。

安村 初めにお伝えしておきたいことは、私たちは主役ではなく、あくまでもガザの人々が主役だということです。この行動は、私たちのストーリーではなく、ガザのストーリーです。ですから、私たちはガザの状況が少しでも改善されるように、ガザの人々に少しでも希望を与えられるように、世界が見捨てたわけじゃないんだっていうことを伝えたいという思いでいることをおことわりしておきます。
 私自身のことで言えば、今年6月に、マーチ・トゥ・ガザ(「ガザへの行進」)という行動に参加しました。シナイ半島のエル・アリーシュ(エジプト)からガザのラファ(シナイ半島の北東部、エジプトとガザ地区の国境地域に所在)までみんなで数日かけて行進し、その後ラファでプロテストをしようというもので、その後グローバル・ムーヴメント・トゥ・ガザにも関わるようになりました。マーチ・トゥ・ガザは結局、エジプト政府に弾圧されて、国外追放になった人が出たりして、ラファまでたどり着くことはかないませんでした。

 その後、グローバル・スムード・フローティラやグローバル・マーチ・トゥ・ガザといった、海上からガザへの違法な封鎖を打破して支援物資を届けるという共通の目的をもつ動きが一緒になり、このグローバル・スムード船団の話へと進み、私もぜひ船で参加したいと思いました。今回、私は、船団のオランダのチームとして参加しています。

――グレタさんは前回、海上からガザへ支援物資を持っていくことを試みてイスラエルに拿捕されましたが、参加には覚悟が必要だったのではないでしょうか。

安村 そうですね。何も考えずに行くというわけにはいかなかったですし、いろいろ考えもしましたが、やはりマーチ・トゥ・ガザで目的地まで行けなかったという経験もあり、とにかく何かしなくては、という気持ちが強く、じっと黙っては見ていられないという感じでした。

 あと、前回のグレタさんたちの行動を見ていて、みんなが参加できるのではあれば私も参加したいと思っていました。いまガザで起きている飢餓というのは、自然災害ではなくて、イスラエルが意図的にガザの人々に食料、医療品を遮断しているために起きている事態です。それなのに、各国の政府やEU、国連は何の行動も起こしていない。だから市民が動くしかない、ということで集まったのがグローバル・スムード・フローティラでした。今回の船団も、イスラエルの包囲を破って無事ガザに支援物資を運び、それをきっかけとして今後もっと大きな貨物船が大量の支援物資を運ぶことができるように航路を開くことを目的にしています。

破壊され尽くしたガザ北部のジャバリヤ難民キャンプ。いっときの「停戦」合意開始後、戻ってきた人たちのテントが見える。 2025年2月13日。Photo by Middle East Images/ABACA/共同

ジェノサイドを許さない

――どういう人たちが何人ぐらいで向かっているのでしょう。

安村 全体の参加人数は私は把握していないのですが、44カ国から集まっているとは聞いています。チュニジアから出発した船が24隻で、今後イタリアから15隻の船団、ギリシャからも船団が合流して、全部で50隻ぐらいになるという話を聞いています。

 私のヨットに乗っているのは、スペイン人2人、スウェーデン人1人、ベルギー人1人、ハワイの方が1人、モロッコ系スペイン人1人、バーレーンからの参加者が1人と私です。

――イスラエルによるガザへの地上侵攻が始まりました。状況が深刻になっています。イスラエルが何をしでかすのか動きが予測できない中で、ガザに向かう人たちの安全面はどのように考えているのでしょう。

安村 リアルタイムの情報は、船にバッテリーも積んでいますし、スターリンクWiFiでインターネットもつながるので、ニュースなどで見ています。そして、リスクがあることは参加者全員が承知をしています。ドローン攻撃を受けたり身柄を確保されたりしたときのことなどを想定して訓練なども行なっています。

 みんな、ガザに行きたくて行っているわけではなくて、本来なら世界中の政府が適切な対策をとっていれば、私たちが行く必要なんてまったくないわけです。でもそれが実行されていないので、みんな何かをしないといけない、という気持ちで参加しています。

 しかしそもそも、私たちは非武装の一般人が 国際航路を通って支援物資を運んでいるわけで、イスラエルが 私たちを攻撃したり拿捕したりするのは違法なことです。

 そしてスペインやベルギーなどはイスラエルに制裁を加えるという決定をしましたが、他の国はいまだに決定的な行動を起こしていません。もう2年近くイスラエルは戦争犯罪を次々に犯してきているのに、アメリカはそれに加担し、武器を送りつづけ、止めようとしません。

 他の国々も、声明などは出していますが、何も行動はせずに、この状況を黙って見ているだけです。ここまでガザの人たちが非人道的な目に遭い、パレスチナの存在そのものが危機に陥っているのに世界が何もしていないのは、許されないことです。だから、少なくともこの船団がイスラエルの違法な封鎖を破ることができれば、この後、ほかの国々も何か行動を起こしてくれるかもしれないというのが、この船団そして参加者の思いです。

 日本政府がイスラエルに対して虐殺を許さないという毅然とした態度をとり、制裁を加え、少しでも早くジェノサイドが終わるように、そしてガザの人々に援助物資が送られるような行動をとるように、日本でも声をあげ、行動をしてほしいと思います。

――無事を祈ります。ありがとうございました。

安村さんインタビュー(2025年10月2日)

感染症の傷が残る乳児に寄り添う母親。ガザでは、過密状態の避難テントや劣悪な環境、医薬品や衣料品不足で乳幼児に皮膚病が蔓延している。ハーン・ユニスの病院。2025年8月21日。Doaa Albaz/Middle East Images/ABACAPRESS/共同

ガザ市北西部スーダン地区の援助物資の配給所で、前夜に殺された親族の遺体に集まる子どもたち。ガザではこれまでにも配給所に集まった住民が発砲を受け数百人規模で殺されている。2025年6月18日。Photo by ZUMA Press Wire/共同

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