ガディガルからガザへ——シドニーのパレスチナ連帯運動からの報告

影山 英(作家、文学研究者。シドニー在住)
2026/06/09
Large crowd of protesters in front of a historic sandstone building, waving Palestinian flags and holding signs.
シドニー市庁舎脇の広場で開かれたイスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領来豪に抗議するデモ。2月9日。(写真はすべて提供筆者)

 2026年2月9日、月曜の夕暮れ。蒸し暑い空気が街を覆うなか、シドニー市庁舎脇の広場には、パレスチナの旗とアボリジナルの旗が並んで翻っていた。「戦争犯罪人はおことわり」と書かれたユダヤ系市民団体のバナー、48年の占領に反対するユダヤ人の会のバナーが群衆の上に掲げられている。数万人の人びとが広場を埋め尽くし、入りきれない参加者が周囲の通りへとあふれていた。

(提供筆者)

 抗議の対象は、イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領である。国連人権理事会の調査委員会によって、ガザ地区のパレスチナ人に対する虐殺を扇動した疑いのある人物の一人として、ベンヤミン・ネタニヤフ首相やヨアヴ・ガラント前国防相と並んで名指しされている人物だ。その大統領を、オーストラリア政府は公賓として招いていた。

 上空ではヘリコプターが低空旋回し、建物の屋上には警官が配置されている。空には監視ドローンが浮かび、広場の周囲には騎馬警官の列が並んでいた。厳戒態勢のなか、演壇ではパレスチナ連帯を訴えるスピーチが続いていた。広場に入れない市民は路上にあふれ、「ヘルツォグを逮捕せよ」と声をあげた。

 集会が終わり、参加者が広場を後にしようとしたときだった。大通りには圧倒的な数の警察官と騎馬警官が並び、群衆を包囲していた。身動きのとれない人びとと警察のあいだで、緊張した睨み合いが続く。

 次の瞬間、隊列が崩れ、警官たちが群衆へ突進した。逃げ惑う人びと。地面に押さえつけられる人。催涙スプレーを浴びせられたという叫び声。私自身もその群衆のなかで、この光景を目撃していた。

(提供筆者)

 この夜、27名が逮捕され、69歳の女性を含む5名が病院に搬送された。警察の暴力の犠牲者には、先住民を標的にする警察権力と長年闘ってきた先住民活動家も含まれていた。

 2023年10月以降、シドニーでは毎週のようにパレスチナでの虐殺と占領に反対するデモが行なわれてきたが、この日のように警察が抗議者に直接的な暴力を行使する事態は初めてだ。しかし、この衝突は決して偶発的なものではない。2年以上にわたり続いてきたパレスチナ連帯運動、イスラエル大統領訪豪をめぐる政治的緊張、2025年12月のボンダイ・ビーチ銃乱射事件後に強化された治安政策、そして抗議活動と言論の自由をめぐる対立――これらが交差するなかで生じた出来事である。

イスラエル大統領の訪豪

 2026年2月8日から5日間の日程で、イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領がオーストラリアを公式訪問した。シドニー、キャンベラ、メルボルンを歴訪し、政府関係者やユダヤ系コミュニティ、2025年12月に発生したボンダイ・ビーチ銃乱射事件の生存者らと面会した。

影山 英

(かげやま・ひで)作家、文学研究者。シドニー在住。現在のオーストラリアにおける言論・表現の自由をめぐる情勢を懸念し、仮名を使用。

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