パレスチナ人死刑法——イスラエルの国際犯罪

髙橋宗瑠(ニューヨーク大学アブダビ校リーガルスタディーズ客員教授)
2026/05/07
Young girl in a teal dress holds a banner with Arabic text at a crowded protest, surrounded by children and flags.
4月17日の「パレスチナ囚人の日」を前に、ガザ市ではイスラエル軍に拘束されているパレスチナ人の釈放を求め、パレスチナ人に対して新たに制定された「死刑法」に反対する人々が集い、国際赤十字委員会の本部まで歩きながらパレスチナ旗や連帯の横断幕を掲げた。参加した子どもたち。Middle East Images/ABACAPRESS.COM/共同

 2026年3月30日、イスラエル議会は、国連の人権機関や国内外の多くの人権団体や専門家などの反対を押し切って、パレスチナ人だけに対して死刑の適用を大幅に拡大する法案を採択した。イスラエルの憲法にあたる基本法を侵害すると最高裁判所が法案を無効にする可能性はまだあるが、最高裁はパレスチナ人を排除するイスラエルの「国体」を基本的に一貫して正当化してきただけに、そのまま施行される可能性は大きいであろう。

 国際人権法は死刑廃止を推奨しているものの完全に禁止しているわけではない。新法の問題は、死刑自体より、それがあからさまにパレスチナ人だけを処刑の対象にしており、人種差別禁止という国際法の基本原則に違反していることである。

 2023年10月からガザで大規模な殺戮をしてきたイスラエルであるが、ガザのみならず西岸およびイスラエル国内でも重大な国際犯罪を繰り返してきている。新法は、そのコンテクストで考える必要がある。

人種差別が前提の死刑拡大

 新法は、二つの異なった法的枠組みを跨いでいる。まず、イスラエルが不法に軍事占領しつづけて、入植活動によって事実上、不法併合しようとしている西岸地区である。新法では、西岸の軍事法廷は「テロ」に関連して殺人罪を犯した人を、原則的に死刑にすることが決められている。処刑は90日以内に秘密裡に行なわれるとあり、特赦などの可能性はない。

 ここで注目しなければいけないのは、軍事法廷だけが新法の対象になっていることである。西岸ではイスラエル人の入植者(そもそも入植者の存在自体が国際法で禁止されているが)にはイスラエルの法律が適用され、容疑者はイスラエルの警察に逮捕されて、公正手続きが保障されている普通の法廷で裁かれる。それに対してパレスチナ人にはイスラエル軍の軍法が適用されて、「容疑者」はイスラエル軍に連行されて、イスラエルの軍事法廷で裁かれる。すなわち処刑されるのは、パレスチナ人しかあり得ないのである。人種の違いにより適用される法律も異なるという、国際法で人道に対する罪として禁止されている、アパルトヘイト体制である。

 パレスチナ人にしか適用されない軍法の内容がイスラエルの普通法と比較して極めて厳しいのはいうまでもなく、例えばイスラエル人に保障されている表現の自由、集会の自由などはパレスチナ人には認められていない。新法では「テロ」との関連が要件となっているが、パレスチナ人のいかなる抵抗も「テロ」と決めつけられるのが常で、例えば人権団体は「テロ団体」として禁止され、一般人のソーシャルメディアへの投稿も恣意的に「テロ行為」として取り締まられることもある。

 刑事責任が問われる年齢も、イスラエルなら18歳と国際法の求める水準であるのに対して、軍法では12歳からである。イスラエル軍が深夜にパレスチナ人の町に侵入して少年を連行するのは日常茶飯事であり、住民に恐怖を広め、イスラエル軍の支配に従わせるのがその目的である。

 また、イスラエルの普通の裁判と違って、軍事法廷は、「裁判」と名付けることができないほど公正手続きが保障されていないことも、重要である。私も何度も傍聴したことがあるが、パレスチナ人のためのろくな通訳さえもない、有罪ありきの茶番劇と言える。有罪率は99パーセントを超えており、有罪判決を作り出すための手続きと言ってよい。

不法併合の東エルサレム、そしてイスラエル国内でも

髙橋宗瑠

(たかはし・そうる)ニューヨーク大学アブダビ校リーガルスタディーズ客員教授。2009年3月より2014年5月まで国連人権高等弁務官事務所パレスチナ副代表を務める。著書に、『パレスチナ人は苦しみ続ける』(現代人文社)、『コンセプトとしての人権』(監訳、現代人文社)など。

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