【連載】ルポ 消えたい子どもたち──生きたいと思える社会へ(第2回)「予期せぬ妊娠」の陰で

樋田敦子(ルポライター)
2025/01/05

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 「生理がない、妊娠したかもしれない」「誰にも相談できない」「育てていく自信がない」──。これらは妊娠葛藤と呼ばれる。子どもが誕生するのは喜ばしいことだが、「予期せぬ妊娠」「望まない妊娠」などで妊娠を受け入れられない人々もいる。若年女性にとって、それはかなり深刻だ。

 日本の年間出生数は72万7277人(2023年)。中絶数は約13万件で、そのうち半数以上が20歳未満、中絶実施率は若干だが上昇している。

 もちろん、すべての人に「性と生殖の健康と権利」はあるものの、妊娠した女性に事情があれば、タイムリミットのある決断を迫られる。そして「予期せぬ妊娠」は、孤立出産や虐待などへの、かなりの危険をはらんでいる。

 東京・新宿区で「予期せぬ妊娠」などをした11~24歳の若年女性たちの悩み相談を行ない、病院、行政などの関係窓口や手続きに同行して寄り添い支援をしている「認定特定非営利活動法人10代・20代の妊娠SOS新宿──キッズ&ファミリー」。2016年の設立以来、LINE、電話、メール、SNSを通して24時間365日ノンストップの相談を行なっている。

 「相談を受け、必ず次は会う約束をします。当初、彼女たちは“死にたい”と繰り返します。私たちが“生きていてくれてありがとう”と話しかけても“死ねなかったから生きているだけ”と答えるのです。なかには、衝動的に走り出し、目の前で自殺を図ろうとする人、自傷行為をしてみせる人もいました」(同理事長、佐藤初美さん)

 日本産婦人科医会「東京23区の妊産婦の異常死の実態調査」(2005~14年調べ)によると、妊婦の自殺は、妊娠2カ月目が多い。不意に訪れた妊娠に驚き、つながることもできずに死を選んでしまうのか。妊娠SOS相談は増えて、18自治体、20カ所、民間でも実施されており、医療や福祉につながることはかなり認知されてきているのに。

 「キッズ&ファミリー」の相談者の年齢別では、11~19歳が51%、20~24歳が21%、25~29歳が8%で、相談数は近年横ばいの状況にある。ただし、「予期せぬ妊娠」を2人に1人が誰にも相談できず、約8割が相談できる場所の存在を知らなかった。「相談にお金がかかりそう」「親に連絡されそう」と不安を感じているのだという。

 ある中高生は「3カ月生理が来ていません」と言うので、これまでの経緯を聞いてみると、子どもができるような行為をしていないことが判明した。「まずは妊娠検査薬で調べてごらんなさい」と佐藤さんが促すと、検査薬に一本線が出ただけで妊娠かと動揺する。「二本線でなければ大丈夫よ、遅れているだけ」と伝えると、翌日生理が来た例もある。

 また妊娠35週、38週になるまで妊娠に気づかず、産婦人科未受診だった人もいたが、相談に来た子で、本当に妊娠している子は8割程度だそうだ。佐藤さんが続ける。

 「義務教育で命の学習はするけれど、妊娠にいたる行為、出産までどういう経過をたどるのかといった包括的性教育をしていません。不安な中高生はサイトで調べてその情報を鵜呑みにしてしまっている。20歳にもならないのにそんな行為をするなんて不良だ、自己責任だと決めつける人がいますが、そうではない。きちんと話して支援します」

 コロナ禍以降、相談にやってくる女性たちの99%が、幼少期からひどい虐待に遭っているという。虐待の世代間連鎖がたびたび指摘されるが、4世代にわたって虐待が続いていた相談者もいた。彼女たちは虐待のなかで「痛い、困った、助けて」といった言葉を言ってはいけないと育てられているので、外にはつらさを話せない。知的能力が高かったとしても、コミュニケーション能力が必ずしも伴っているわけではない。圧倒的に語彙が少なく、自分自身のことを言葉で表現するのは苦手だ。自傷行為は当たり前、自殺未遂を重ねている人も多い。

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樋田敦子

(ひだ・あつこ)ルポライター。明治大学法学部卒業後、新聞記者生活を経てフリーランスに。著書に『コロナと女性の貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』(大和書房)。最新刊は構成を担当した『貧困・孤立からコモンズへ』(太郎次郎社エディタス)。

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