【連載】第三者の記(第2回)鹿児島県警との対話

小笠原 淳(ライター)
2025/01/05

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 パソコンのデスクトップに、つまり起動直後に開く最初の画面の中に、何でも保存してしまう癖がある。

 仕事のデータはまめにフォルダーで分類し、デスクトップはすっきりさせておけ──。そう己に言い聞かせつつ、気がつけば眼前には所狭しとアイコンの群れ。2024年の初夏、その群れに新たなフォルダーが加わった。

 作成時の「新しいフォルダー」なる仮の見出しを消去し、上書き入力した標題は「鹿児島県警」。2025年が明けた時点で、同フォルダー内には50あまりのアイコンが並んでいる。デスクトップの混沌よろしく無造作に散らばっているファイル類もあれば、とりあえずフォルダー内に作られた下位のフォルダーで分類されているデータも。後者の1つ「県警電話」と題した小フォルダーを開くと、3つの音声データを確認できる。収録時間は、それぞれ9分58秒、6分26秒、および3分12秒。いずれも、私と鹿児島県警察職員とのやり取りを記録した音声だ。

 2008年製のオリンパスのICレコーダーは、型落ちらしからぬよい仕事をした。

録音したボイスレコーダー

「返還」「押収」「任意提出」

 最初の通話は、音声データが残っていない。にもかかわらず相手との問答をほぼ正確に再現できるのは、忘れようにも忘れられないやり取りがあったためだ。

県警「うちの元部長が逮捕された事件の重要な証拠品ということで、返還していただけないかと」

小笠原「返還?」

県警「証拠品として押収させていただけないかと」

小笠原「押収? 令状かなんか出てるんですか」

県警「……今のところは、ないです」

小笠原「ああ、任意ってことですね」

県警「はい、お願いベースになります」

 2024年6月4日午前。鹿児島県警察の組織犯罪対策課員を名乗る男性は、電話の向こうで確かに言った、「お願いベース」と。

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小笠原淳

(おがさわら・じゅん)ライター。1968年11月、北海道小樽市生まれ。小樽商科大中退。「札幌タイムス」記者を経て現在「北方ジャーナル」「ニュースサイトHUNTER」などに執筆中。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート)。札幌市在住。

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