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グーグルでもヤフーでも、それ以外のサービスでも、インターネットの検索エンジンならば何でもよい。検索窓に「刑事企画課だより」という語を打ち込むと、候補の上位に新聞記事やテレビニュースの見出しが並ぶはずだ。結果の画面をざっと眺めると、2024年の6月から7月にかけて配信された記事が多くを占めていることがわかる。
《「組織的にプラスにならない」 去年10月、県警内部で配布された文書の中に、捜査書類の廃棄を促しているととれる表現が記載されていたことが分かりました》(MBC南日本放送(TBS NEWS DIG)
2024年6月12日配信)
報道記事ばかりではない。社説でその一件を扱った全国紙もあった。
《鹿児島県警が、刑事手続きの中で検察庁に送らなかった捜査書類などについて、速やかな廃棄を促す文書を作って職員に呼びかけていた。警察に不都合になるおそれがあるものはなかったことにしてしまおうという趣旨にとれる。そうであれば、けっして許されない》
(朝日新聞デジタル2024年6月17日配信)
鹿児島県警察が職員に『刑事企画課だより』という文書を配布し、組織的に不都合な捜査書類を片っ端から処分するよう促していたという話題だ。報道によれば、問題とされた『たより』にはこんな文言などが含まれていた。
《再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません‼》
警察による、これ以上ないほどのあからさまな隠蔽指示。右の事実が報じられるや、各地の弁護士会や市民団体などから猛烈な抗議の声が上がり、国会でも野党議員がこの件で質問に立った。地元・鹿児島の議会では12月に入ってからもこの件が俎上に載ったことが伝わっている。
閑話休題。検索エンジンに話を戻す。
先の「刑事企画課だより」に一語を追加し、二つの単語で再検索してみる。加えるのは、「ハンター」の4文字。すると検索結果の順位が変動し、九州・福岡のニュースサイトHUNTER(ハンター)の報道が上位に示される結果となる。左の書き出しに始まる記事が、その一つだ。
《職員の不祥事にかかわる事件捜査の記録の開示を拒み続けている鹿児島県警察が、一般の事件も含めた対応の記録を積極的に破棄するよう現場の警察官らに指示していたことがわかった》
(2023年11月17日配信)
これ即ち、問題の『たより』を世に知らしめた最初の記事。執筆者は、手前味噌ながらこの私だ。
前号までの小欄で伝えた通り、私は北海道・札幌でライター業に就いている。北国のライターが海を隔てた鹿児島の話題でこの記事を書くことになったのは、福岡のハンター編集部を通じて先の『たより』を入手できたためだ。現地の鹿児島に一度も足を運ぶことなくまとめた原稿は、広い意味で〝コタツ記事〟の一種といえる。そうであっても、発信する意義は充分にあった。結果としてこの問題を報道大手各社が追いかけ、先に述べたような社会的関心を喚起することになったのだ。
とはいえ、ちょっとすっきりしないところもある。ハンターが最初の記事を配信したのは2023年11月。同じ話題を大手が初めて報じたのは、24年6月のことだ。
新聞よ、テレビよ。なぜ半年間も黙殺しつづけたのか。
「隠蔽」証言で取材攻勢
その年1月に急襲してきた苛酷な腰痛が寛解しつつあったころ、入れ替わりに毎春恒例のアレルギー症状が首をもたげ始めた。北海道特有のシラカバ花粉症というやつだ。涙と鼻水と時を選ばないくしゃみとが、4月上旬から6月半ばまで続く。ただ、その時期に受けつづけた電話への対応がしばしば険のある声になったのは、必ずしもアレルギーばかりが原因ではなかった。
花粉の飛散が増え始めるころに届いた、差し出し人不明の茶封筒。その投書をめぐる騒ぎについては、本連載のみならず報道各社が折に触れて伝えてきたところだ。鹿児島県警の未発表不祥事などを告発する文書を受け取った私は、投書の全文を先述のハンター編集部と共有。するとその5日後、同県警が別件でハンターへ家宅捜索に入り、押収したパソコンから告発文のPDFファイルを発見する。県警はそれをもとに告発者を割り出したとして、退職まもない元生活安全部長を守秘義務違反で逮捕した。
報道機関への不当な圧力が疑われるのみならず、そこで押収した資料をもとに別の事件を仕立てる強引な捜査。その適正性には大きな疑問が残るところだが、事態はその後さらに驚くべき展開に。逮捕された元生安部長が裁判所の「勾留理由開示法廷」で県警本部長による不祥事隠蔽指示などを証言したのだ。事実ならば、逮捕はあからさまな口封じ、言うなれば「隠蔽に隠蔽を重ねた」ことになる。