難民帰還問題に揺れるアフガニスタン

登利谷正人(東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授)
2025/05/08
カブール郊外。2023年

アフガニスタンの現在

 春分の日にあたる3月20日、アフガニスタン暦1404年の新年が始まった。同日はアフガニスタンの学校でも新年度の開始日となる。しかし、2021年8月15日に政権を獲得したタリバン暫定政権の統治下では、女子教育は第5学年までしか認められていない。国連をはじめとする国際社会からは早期の問題解決に向けた様々な提言がなされるともに、懸念の表明が相次いでいるにもかかわらず、現在のところ解決の糸口すら見えてない。

 さらに、1979年から40年以上にわたって続いた戦乱状態により、社会・経済状態は極めて脆弱なままであり、当地に暮らす人々は生きていく糧を得るために厳しい生活を強いられている。加えて、近年の気候変動の影響で洪水、地震などの自然災害も数多く発生しており、危機的状況に直面する人々も増加しつづけている。

 他方、タリバン暫定政権成立後、戦争状態はひとまず収束し、治安状況に改善が見られる。そのため、長期間続いた戦闘やテロによる被害は大幅に減少している。近年の歴史動向を俯瞰すると、1979年の旧ソ連軍の軍事侵攻以降、大国や周辺国の干渉がアフガニスタン情勢を常に不安定なものとしてきた。現在の状況に目を転じると、タリバン暫定政権を正式に国家承認した国は現時点で存在しない。しかし、タリバン暫定政権は、イラン、パキスタン、中央アジア諸国、中国といった周辺国やヨーロッパ諸国、日本やロシアなどあらゆる国々と実質的な「外交」を積極的に展開している。タリバンの実質的政権獲得以降、国際社会からの支援は一部の人道支援を除き激減し、資産凍結も解除の道筋が見えない中、タリバン暫定政権は各国との「外交」の展開を通じた経済開発に積極的に乗り出している。例えば、国内のインフラ整備プロジェクトや周辺国間との国際流通網の整備、およびエネルギー関連事業などを展開している。

 以上のような現状を押さえた上で、現在、アフガニスタンが直面している諸問題の中から、特に今後重要になると考えられる2点、難民帰還問題とタリバン暫定政権の「外交」について取り上げ、今後のアフガニスタンへの関与のあり方について展望を示したい。

難民「帰国」問題

登利谷正人

(とりや・まさと)東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授。日本学術振興会特別研究員などを経て現職。専門はアフガニスタン・パキスタンを中心とした南アジア地域研究・近現代史。著書に『近代アフガニスタンの国家形成——歴史叙述と第二次アフガン戦争前後の政治動向』(明石書店)。

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