【入管と国際法(下)】原告本人尋問──収容はどれほど人を傷つけるか

神田和則(元TBSテレビ社会部長)
2024/12/05
法廷終了後、支援者・弁護団とともに横断幕を掲げるサファリさんとデニスさん。2024年10月29日、筆者撮影。

【入管と国際法(上)】法廷からの報告 からつづく。

 「2年も3年も閉じ込められて、病気にさせられて、病気にならないと出してくれない。(こんなことが)日本で起きるのはおかしい」──1300日以上、入管施設に収容された2人の外国人男性が「日本の入管収容制度と入管法は国際法に反している」として国に賠償を求めた裁判で、10月29日、原告本人が収容の実態を証言した。裁判所が違法と判断すれば、今後の入管行政への影響は大きい。法廷で何が語られたのか。(一部敬称略)

1300日の収容が始まった

 「デニスさん、証言台の前に来ていただけますか。これからご本人として話をお聞きします。記憶のまま述べると宣誓してもらいます」

 午前10時過ぎ、本多智子裁判長が、原告のトルコ国籍クルド人、デニスさんに語りかけた。40余りの傍聴席はいっぱいで、法廷入口には「満席」の札が掛けられた。

 裁判の争点は三点。第一に「日本の入管制度・入管法が自由権規約(国際法)に反して違法か」、次に「2人の原告に対する個別の収容が同規約に反して違法か」、そして「違法の場合、国は賠償責任を負うか」。

 この日の「原告本人尋問」は二番目の争点に深く関わる。2人が入管施設に収容中、具体的にどんな扱いを受けたのか。それを自らの言葉で明らかにすることが主眼だ。

 宣誓の後、原告代理人の岡本翔太弁護士による「主尋問」が始まった。デニスさんはトルコ語で答え、日本語通訳が付いた。

岡本翔太弁護士(以下、岡本)「入国当時のことを質問します。2007年ですね」

デニスさん(以下、デニス)「はい」

岡本「なぜ母国を出国したのですか?」

デニス「トルコの大統領は独裁者。それに抗議するデモに参加した時に警察に逮捕された。警察から私の電話番号や住所がまったく知らない人に知らされて、私や家族に脅迫電話が……。命を守るために出国しました。政治的、宗教上の理由によりトルコでは命の危険がありました」

岡本「デモは、あなたがクルド人であることと関係がありますか?」

デニス「はい。間違いなくその理由で参加しました」

 来日の経緯に始まり、難民申請、オーバーステイで収容、一時的に収容を解かれる仮放免、日本人の妻と知り合って結婚……と歩みをたどる。2016年5月、長期の収容が始まった。

「日本の入管収容制度と入管法は国際法(自由権規約)違反」訴訟

 自由権規約は、第二次世界大戦中の大量虐殺などの人権侵害、抑圧を教訓に、国連が1948年に採択した「世界人権宣言」を条約にした。1976年に発効、日本は79年に批准、恣意的な身体の拘束を禁じるほか、拘束にあたり裁判所が関与する必要性をうたっている。

 デニスさんとサファリさんは、2019年10月、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会に「個人通報」を申し立て、極めて長期の収容にさらされ、「2週間仮放免」と再収容が繰り返されている実態を訴えた。

 これに対し作業部会は2020年8月、「意見」をまとめ「2人に対する身体の自由のはく奪は、世界人権宣言、自由権規約に違反したもの」と結論づけたうえで、「司法の承認や審査なしに収容が繰り返されている」「理由も期間も告げられていない」「事実上、入管法は無期限収容を許すもの」と指摘した。

 日本政府がこの「意見」に従うことはなく、2人は2022年1月、提訴した。

岡本「奥様は面会に来ましたか?」

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神田和則

(かんだ・かずのり)元TBSテレビ社会部長。現在はフリー記者として難民、入管問題を取材。

2025年6月号(最新号)

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