本書に惹かれたのは(書名に「地平」という字があるからではなく)掛貝氏の書かれるものに関心を持っていたからだ。2025年2月号特集「リッチに課税せよ」の準備の際、財政について学ぶうえで氏が学術誌などに書かれていた内容が参考になった。寄稿をお願いしたかったが、単著執筆中とSNSで書かれていたので控えた。その単著が刊行された。
掛貝氏はスイスという、参加民主主義という点で突出した半直接民主主義の国における財政のありようを通じて、北欧モデルなどとはまた違う、社会の多様性を前提とした財政民主主義の地平を提示している。学術書ながら、その分析にあたっては、財政学の基本的な学説の整理、そして新自由主義が何を掘り崩し、政治と経済の何を変容させてきたかということも丁寧に記述され、読みにくくはない。
興味をかきたてる内容も多い。財政民主主義の多様なルートを示した第七章では、人口3万人あまりの州で導入された「逆進」所得税、すなわち州を租税回避地にすることで富裕層を呼び込もうという税制が、住民投票とはまた別の民主主義的提起によって廃止される顛末が紹介される。
参院選前に現金支給という話題が与党から出され、そして消えたが、財政と民主主義は政治の根本的テーマである。私のような一般読者には専門的記述も少なくなく、やや高価でもあるので、躊躇される方には、ぜひお近くの図書館でリクエストされることをお勧めしたい。この本はまさに自治体の図書館に所蔵されるべき本でもあるからだ。(熊)
〈今回紹介した本〉
『財政民主主義の地平』
著:掛貝裕太、2025年3月、有斐閣、定価4950円(税込)