戦争は生活を破壊するが、それは直接に戦争が破壊するだけでなく、戦争を始めるまでに、人の生活を蝕んでいく。その予感があった。
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近頃、2人の人から別々に、同じ言葉を聞いた。「トランプ大統領は戦争が嫌いなんです」と。
一人は高名な評論家で、もうひとりは大手新聞社の記者だった。評論家さんの方は続けて「トランプとプーチンが停戦しようと言っているんだからゼレンスキーは従うべきだ」と言った。記者さんの方は私が「ではなぜトランプはイスラエルの戦争に肩入れしているのか?」と問うたのだが、トランプの娘婿の話と国内のユダヤ人支持者たちの話をするだけだった。それは誰でも知っている。
私がこの言葉に引っかかったのは、わざわざ言うほどの「意味のある言葉なのか?」という疑問を持ったからだ。「戦争が嫌い」という大統領の好き嫌い問題は、戦争が起きない、起こさない、もし戦争が起こりそうになったら断固反対する、という現実につながるのか? もしつながるのであれば、おおいに意味のある言葉だが、その現実に無関係ならば、何の意味もない。
意味がないのに言った動機は「僕はトランプが好きだ」という告白なのだろう。トランプが好きな日本人はたいてい、強者や権威が好きな男性である。
権力者が戦争を好まないなら戦争は起きないのか? という問題に戻ろう。戦争は好みで起こるのではない。利益追求の果てに起こる。だからトランプのような商人は最も戦争の起爆剤として効果的に働く。記者さんは「トランプ大統領は戦争が嫌いなんです」に続けて、「戦争は商取引にとっては邪魔ですから」と言ったが、そんなことはない。トランプは日本にもっと武器を売ろうとしている。武器は工業製品であり、高額商品だ。
アメリカは原爆を落とした後、日本に「核の平和利用」という宣伝文句を携えて原子力発電を売りにきた。そして見事に成功した。沖縄を占領している間にベトナムと戦争し、米軍基地を撤退できないほどに整え、返還後は「思いやり予算」をもらってそのまま駐留した。いよいよ日米安保条約で日本が守ってもらえそうな「台湾有事」が迫ると、米軍は撤退の準備を進めている。それらはすべて、戦争が好きか嫌いかではなく、利益追求の最も効率的な方法をとっているだけなのだ。アメリカは誰が大統領になろうと、結局、利益追求だけに関心がある。そして、ベトナムや中東やアフガニスタンで、戦争そのものは損失になる、と学んだ結果、他国に戦争をさせて儲ける道を選んだ。それが今、である。日本はその金儲けの手段にされている。