「抵抗の枢軸」攻撃とパレスチナへの民族浄化

早尾貴紀(東京経済大学教授)
2026/04/05
ガザのジャバリア地区に軍事侵攻するイスラエル軍(Photo by IDF)

背景としての「新中東構想」

 イスラエルが主導しアメリカ合衆国の全面的な参戦を得たイラン攻撃は、イスラエルと米国とが中心となって進めている「新中東構想」の一環と見ることができる。この「新中東構想」とは、いわゆる「中東和平」とは無関係どころか、むしろ真逆のものだ。従来の「中東和平」は、パレスチナ難民・パレスチナ占領の問題の公正な解決なしにはアラブ諸国がイスラエル国家の承認はしない、ということが根底にあった。ところが、2023年9月の国連総会でネタニヤフ首相が発表した「新中東構想」では、イスラエルの版図はパレスチナ全土を占めるがごとくヨルダン川西岸地区・ガザ地区を消し去っている。そして、周囲のアラブ諸国――エジプト、ヨルダン、アラブ首長国連邦、バハレーン、さらにはサウジアラビアまでも――がイスラエルの同盟国として色づけされ、その中心にイスラエルが置かれている。つまり、パレスチナの難民問題・占領問題を解決することなく、アラブ諸国がイスラエル国家を承認し、中東にイスラエル=米国を中心とした安全保障と資源開発と貿易体制を構築するということだ。

 この動きが加速してきたのは2000年頃であり、一方でパレスチナのオスロ和平体制は、イスラエルの提示した西岸地区一部併合案によってキャンプ・デーヴィッド会談が決裂して破綻、その直後から第二次インティファーダというオスロ体制への抗議運動が展開された。それに、イスラエルは西岸・ガザへの全面的な軍事的弾圧を長期にわたって行なうようになり、その過程でイスラエルはパレスチナへの一方的占領政策(隔離壁の建設やガザ封鎖など)を展開するようになる。他方で、イスラエルと米国は周辺アラブ諸国との関係構築に注力するようになり、それが2020年の「アブラハム合意」と呼ばれる事態をもたらした。つまり、アラブ首長国連邦、バハレーン、モロッコ、スーダンの4カ国とイスラエルとが平和条約を結び相互承認を果たし、それまでエジプト(1979年)とヨルダン(1994年)のみだった関係を、短期間のうちに一気に広げたのである。アラブの盟主ともされるサウジアラビアとの平和条約もまもなくだと公然と言われるようになっていた。

 これが、2023年9月のネタニヤフ演説で謳われた「新中東構想」の土台をなしているのだが、この地図をよく見ると、そこから抹消されているのがパレスチナの西岸地区・ガザ地区であり、そして同盟諸国の色づけがなされていない空白地帯が、イスラエルの北側から東に連なるレバノン、シリア、イラク、イランであった。実際に、レバノンのヒズブッラー、シリアのアサド政権、イランのイスラーム体制は、明確にイスラエルと長年にわたって対立しており、またパレスチナのハマースへの支持・支援をしていた。つまりこの一帯が、イスラエルにとっての脅威であり、その無力化ないし体制転覆を、イスラエルと米国は狙っていたのである。

ガザ蜂起で高まった緊張関係

早尾貴紀

はやお・たかのり パレスチナ/イスラエル研究、社会思想史。ヘブライ大学客員研究員(2002-04年)。著書に『パレスチナ、イスラエル、そして日本のわたしたち』(皓星社)、『イスラエルについて知っておきたい30のこと』(平凡社)ほか。訳書に、ハミッド・ダバシ『イスラエル=アメリカの新植民地主義 ガザ〈10・7〉以後の世界』(地平社)、同『ポスト・オリエンタリズムーテロの時代における知と権力』(作品社)ほか。

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