関連:「特集:軍事化される西日本」(2026年2月号)
2022年8月4日、中国は米下院議長ナンシー・ペロシの台湾訪問に反発し、台湾を取り囲む大規模軍事演習を実施した。その一部として発射された弾道ミサイル5発が沖縄県・波照間島南西の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下し、さらに与那国島から約80キロの海域(EEZ外)にも1発が着弾した。与那国町漁協は組合員に演習期間中の操業自粛を要請した。軍事演習を理由とした自粛要請は、これが初めてだった。玉城デニー沖縄県知事は「地域住民が生命の危機にさらされる事態は断じて許されない」と述べた(1)。
1 『朝日新聞』2022年8月6日、『読売新聞』2022年8月5日。
国際政治の最前線が、島の人びとの暮らしのただ中に突如として現れた瞬間だった。中国の軍事的台頭は、もはや抽象的な地政学の話ではなく、漁に出られるかどうかという生活の問題となった。
もっとも、ここで一つの問いが生まれる。中国の軍事力が増大していることは事実である。台湾海峡をめぐる緊張が高まっていることも否定できない。しかし、その事実からただちに「中国は日本にとって差し迫った脅威であり、軍事的対応を急がなければならない」という結論が導かれるのだろうか。
本稿は、中国が脅威であるか否かを論じるものではない。むしろ、中国の軍事力増強という事実が、どのような言説を通じて「中国脅威論」として形づくられ、日本社会のなかで共有されてきたのかを考えてみたい。
近年、日本政府は中国を「これまでにない最大の戦略的挑戦」と位置づけている。南西諸島では自衛隊配備が進み、武力攻撃予測事態が発令された場合には、先島諸島の住民らと観光客あわせて12万人を九州各県ならびに山口県に島外へ避難させる計画も策定されている。
だが、その前提となる「中国の脅威」という認識は、どのように形成されてきたのだろうか。防衛白書や政治指導者の発言、尖閣諸島や台湾海峡をめぐる報道、そして島々で進む軍事化の現実をたどりながら、その過程を考える。





