翻訳=南部真喜子(東京外国語大学大学院総合国際学研究院特別研究員)
※本稿は東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、東京大学附属図書館U-PARLの共催により2025年11月15日に東京大学で行なわれたラブキン教授の公開講演「イスラエルの不処罰が世界について物語ること」の内容を2026年2月半ばの時点で加筆したものである。
【関連】ガザ後の世界――不処罰という鮮明な課題(上)ヤコヴ・M・ラブキン(モントリオール大学名誉教授、歴史学者)
反ユダヤ主義の武器化とファシズムの復活
イスラエルに対する不処罰には、イデオロギー的な根源も存在します。それは、ヨーロッパにおけるナチスによるジェノサイドの記憶を「武器」として利用することです。イスラエルは、自らを80年以上前にヨーロッパ人に殺害されたユダヤ人の集団的な受益者(a collective legatee)であると位置づけています。ドイツはもとより他の欧米諸国もある程度はこの立場に同調し、イスラエルへの支援を正当化されるべき国家的理由(Raison d’État)にまで引き上げて見ています。なお、ドイツは公式に「イスラエルの安全保障はドイツの国是(Staatsräson)」であると宣言しています。言うまでもなく、安全保障にとって何が必要かを決定するのはイスラエル政府であり、ドイツは単にそれを確保する義務を負っているに過ぎないのですが。
この外交政策は、数十年にわたり機能してきたとはいえ、ガザでのジェノサイドを目の当たりにして、ドイツ市民の間でも疑問や抗議を引き起こしています。なぜなら、多くの人びとが、シオニズムによる民族的排他主義が、イデオロギーと実践の両方においてナチスの経験と極めて似ていることを確信するようになったからです。その結果、親パレスチナ的な言説や活動に対する弾圧が引き起こされ、ドイツ、フランス、英国、米国をはじめとする各地で民主的な自由のシステムそのものが揺さぶられているのです。EUは多数の市民個人に対して制裁を科しました。これらの制裁は、ワシントンがICCのカーン氏やアルバネーゼ氏に科したものと同様に、制裁対象者とその家族が通常の生活を送ることを不可能にしています。
このように、ガザにおけるイスラエルの残虐行為を欧米諸国が支持することは、イスラエルとその支持者たちの思惑通り、基本的価値観や権利の崩壊を招いています。欧米諸国によるイスラエル支持が民主主義の欠陥を抱えているのも当然です。支配階級とは異なり、欧米諸国の大多数の市民はイスラエルを世界の平和に対する脅威と見なし、ガザに対するジェノサイドを普遍的な人間性に対する脅威と見なしています。このことは、パレスチナ人に連帯する大規模なデモをいち早く組織した若い世代にとくに言えることです。労働者たちもパレスチナ人への連帯を表明しています。例えば、イタリアでは2025年10月に、イスラエルの行動に対する統一ゼネストが実施されました。
しかしイスラエルは、親パレスチナ行動を抑制するよう他国の内政に干渉する権利が自らにあると考えています。シオニスト組織はイスラエルと緊密に連携しながら、ソーシャルメディアや公的記録などを利用して、パレスチナを支持する活動家たちに関する詳細なプロフィールを作り、それらを政府機関、教育機関、職場に提供しているのです。
その結果、大学からの除籍、拘禁、国外追放に至るまでの様々な制裁措置が取られることになります。マルコ・ルビオ国務長官の言葉を借りれば、言論の自由の行使が「重要な外交政策の目的を著しく損なう」場合において、米国籍を持たない市民は国外追放に遭う可能性があります。親パレスチナデモを組織する学生たちは、その多くはユダヤ系ですが、反ユダヤ主義のレッテルを貼られています。この戦略は、米国の大学キャンパスにおける「ジェノサイド的反ユダヤ主義」とは何かというテレビ討論を放映することで、ガザで実際に進行中のジェノサイドから人々の注意をそらすように機能しています。







