中東戦争のはざまで――ヨルダンの現在

佐藤麻理絵(筑波大学人文社会系助教)
2025/09/05
破壊された建物の下で、パラシュートで投下される支援物資を待つ人々。2025年8月20日、ガザ地区中央部のヌサイラート。Moiz Salhi/APA Images via ZUMA Press Wire/共同

 2023年10月7日のハマースによる越境攻撃を端緒として始まったイスラエルのガザ侵攻により、ガザ地区の死者数は6万人を突破した。その大半が民間人であり、飢餓で亡くなる子どもが100人を超す深刻な事態にある。虐殺が続くガザ国境まで、車でわずか3時間ほどの距離にある隣国ヨルダンは、陸路や空路によるガザへの支援物資輸送の重要な拠点として位置してきた。また、国内の半数以上を占めるとされるパレスチナ系住民の存在を背景に、戦闘開始以降、ガザ地区への連帯を示すデモが連日繰り広げられている。

 紛争地に囲まれるヨルダンは、域内紛争の波及を押し留め、緩衝地帯の役割を担う緩衝国として知られる。また、パレスチナ難民を皮切りに、隣国イラクやシリアでの紛争や内戦に伴い発生した難民を多数受入れつつも、ヨルダンの権威主義的君主制は維持され、「アラブの春」も乗り切っている。

 本稿では、今般のガザ戦争における振る舞いや言動を紐解きながら、中東地域の緩衝国として位置してきた小国ヨルダンの現在に迫る。

人道支援への尽力

 長期化するガザ戦争に対し、ヨルダンの姿勢は以下の2点において明確である。1つは即時停戦を支持し国際社会へ呼びかける点であり、2つにはいわゆる「ヨルダン・オプション」の断固拒否の姿勢である。

佐藤麻理絵

筑波大学人文社会系助教。1989年生まれ。博士(地域研究)。専門は現代ヨルダン政治、国際関係論、難民研究。著書に『現代中東の難民とその生存基盤』(ナカニシヤ出版)など。

2025年9月号(最新号)

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