軍事費の膨張は何をもたらすか――歴史から見た軍拡

山田 朗(明治大学文学部教授)
2025/05/09
陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイ。佐賀空港側に駐屯地を整備し7月9日に17機が配備される。共同

 戦後80年をむかえた現在の日本は、戦後最大の軍備拡張期に入っている。防衛費は、第二次安倍晋三内閣の2013(平成25)年度以来、13年連続で増加している。米軍再編費を含まない当初予算に限ってみても、2021(令和3)年度に初めて5兆円を超え、2022年度に5兆2000億円だったのが、「安保三文書」の決定にもとづき23年度には6兆6000億円、24年度には7兆7000億円、そして25年度には8兆4000億円(米軍再編費を含むと8兆7000億円)になっている。2025年度の場合、国家歳出の7.3%、GDP(名目値)の1.35%に達している。

 本稿では、近代日本の歴史を振り返り、軍事同盟のもとでの軍備拡張=軍事費の膨張が何をもたらしてきたのかを考えてみたい。

近代日本の顕著な軍備拡張期

 近代日本(1868年~1945年)における「顕著な軍備拡張期」は3回ある。この場合の「顕著な軍備拡張期」とは、戦時以外で国家予算(一般会計)の40%以上が軍事費に投入された期間(年度)としておく(注1)。「戦時以外」としたのは軍拡がいつ始まったのかが明確になるからだ。また、「40%以上」とする普遍的な根拠はないが、20%ではほとんどの時期がオーバーしているし、30%でも例えば1931年度以降はすべての時期が含まれてしまい、特徴が把握しづらいからである。

 3回の「顕著な軍備拡張期」とは次の期間(年度)である。

①日清・日露戦間期:1896(明治29)年~1900(明治33)年
②第一次世界大戦後:1919(大正8)年~1922(大正11)年
③第二次世界大戦前:1934(昭和9)年~1937(昭和12)年

 ①は、大英帝国=イギリスの支援のもと(1902年に日英同盟締結)で陸海軍の大拡張が行なわれた時期である。この時期の軍事費の平均比率は46.9%、最高比率は1898年度の51.2%である。日露戦争開戦時の海軍の戦艦6隻すべて、装甲巡洋艦6隻のうち4隻が最新のイギリス製であった(当時、戦艦と装甲巡洋艦を合わせて「主力艦」といい、海軍力の中核であった)。昔も今も単体価格でもっとも高い兵器が軍艦である。これらの建造費と陸軍の師団増設(日清戦争時の8個師団から13個師団に)が、軍事費を全体として押し上げた。この時期の仮想敵国はロシア帝国である。

山田 朗

(やまだ・あきら)1956年、大阪府生まれ。明治大学文学部教授。専攻は日本近現代史。著書に『大元帥・昭和天皇』(ちくま学芸文庫)、『軍備拡張の近代史』(吉川弘文館)、『日本は過去とどう向き合ってきたか』(高文研)、『帝銀事件と日本の秘密戦』(新日本出版社)、『増補・昭和天皇の戦争』(岩波現代文庫)など。共著に『戦争ではなく平和の準備を』(地平社)など。

2025年6月号(最新号)

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