イスラエル極右とガザ〝戦争〟(上)蘇るカハネ主義の脅威

赤尾光春 (国立民族学博物館特任助教)
2025/07/08
ガザ市北西部のスーダン地区にある援助物資の配給所で、前夜に殺された親族の遺体に集まる子どもたち。この配給所では少なくとも9人が発砲を受け殺害され、多数が病院に運ばれた。ガザではこれまでにも配給所に集まった住民が数百人規模で殺されている。2025年6月18日。Photo by Saher Alghorra/ZUMA Press Wire/共同

はじめに

 イスラエルの対パレスチナ政策を一貫して批判してきたジャーナリストのギデオン・レヴィは、2025年1月19日付の『ハアレツ』論説で、この戦争を「第一次カハネ戦争」と位置づけ、次のように述べた。

 イスラエルで起きた重大な変化は、ガザでの戦争が最もよく例証している。この戦争に関するほとんどすべてが、ファシスト、レイシスト、人口移送を擁護する極右をなだめることを意味した。すなわち、カハネ主義の精神がその目標と行動を掌握したのだ。それは、軍の残酷さの尺度に留まらず、何よりも、残酷さがイスラエル社会全体における価値となり、機会、財産、奇跡となる道筋だった。残酷さが、誇り、熱望し、自慢し、ひけらかすべきものとなったのである。

 イスラエルはこれまでの戦争でも残忍な行為をたびたび犯してきたが、それでも、「時には否定し、隠し、嘘をつこうとし、時にはそれを認め、恥じることさえあった」。だが、6期目となるネタニヤフ政権の成立とともに「カハネ国家」が誕生して以来、「それまで合法的とは見なされなかった声が政治やメディアに浸透した」結果、イスラエルは「ただアラブ人を殺害し破壊するためだけにアラブ人の殺害と破壊を熱望する国家」に成り下がった。レヴィはそのように断罪し、こう続ける。

 ラジオやテレビで人びとは「ガザに罪のない者はいない」と言い、天気を語るのと同じような気軽さですべての人を殺す(幸せな)権利と義務について語った。/論説委員たちは、それが許されるだけでなく、自分たちにとっても有益であることに気づいた時、それまで隠していた見解を明らかにした。(中略)このような言説はイスラエルには存在しなかったし、民主主義国家にも存在しない。一方、反戦の声は圧殺され、思いやりや人間性さえも禁じられた。公論の乗っ取りはこうして完成した。

 レヴィのいう「それまで合法的とは見なされなかった声」とは、明白なジェノサイドの意図をもった発言とも言い換えられる。ヨーロッパのNGO「パレスチナのための法」(Law for Palestine)は、2023年10月7日以降にイスラエルの政府・軍・メディア関係者などが行なった発言のうち、ジェノサイドの扇動とみなし得る500以上のケースを集め、データベース化2した。以下は、そのような発言の代表例である。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相(リクード)
 「我々は光の民であり、彼らは闇の民だ。我々はイザヤの預言を実現する」(2023年10月25日)
 「アマレク3があなた方にしたことを忘れてはならない、と聖書は言っている」(10月28日)
 「私たちは、怪物、親の目の前で子どもを殺した怪物と対峙している。これはイスラエルだけの戦いではない。野蛮人に対する文明の戦いなのだ」(12月24日)

ヨアヴ・ガラント国防相(リクード)
 「私はガザ地区の完全な包囲を命じた。電気も食料も燃料もなく、すべてが閉鎖される。我々は人間の(顔をした)野獣と戦っており、それに相応しく行動している」(2023年10月9日)
 「我々はすべてを根絶する。1日と言わず、1週間、数週間、あるいは、たとえ数カ月かかっても、あらゆる場所に到達する」(2023年10月9日)

イツハク・ヘルツォーグ大統領
 「あそこにいる〔パレスチナ〕国民全体に責任がある。民間人は気づいていない、関与していない、などというレトリックは絶対に間違っている。絶対に真実ではない。彼らは立ち上がることもできたし、あの邪悪な政権と戦うこともできたのだ」(10月14日)
「ガザに罪のない市民はいない」(10月23日)

アミハイ・ベン=エリヤフ文化遺産大臣(ユダヤの力)
「ガザに原爆を投下することも選択肢の1つだ」

タリ・ゴットリーブ議員(リクード)
「建物を破壊して! 見境なく爆撃して! そんな無力なことはやめて。あなた方にはできる。世界的な正当性もある。ガザを粉砕して! 容赦なく! 今度ばかりは情けの余地はない」(10月7日)

アリエル・カルナー議員(リクード)
「今こそ敵にナクバを! この日は我々のパールハーバーだ。我々はなお教訓を学ぶだろう。今や目標はただ1つ、ナクバだ! 48年のナクバを上回るナクバ。ガザのナクバ、ともに行動する者にとってのナクバだ!」(10月8日)

 そもそも、ジェノサイドの加害者とされる者がその意図を直接かつ明示的に表明することは珍しい。そのため、そのような告発がなされた場合、当事国の為政者や虐殺行為に直接・間接に関与した人物の言動を丹念に読み解くことを通してジェノサイドの意図――「国民的、民族的、人種的、または宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図」――を推し量る必要がある。ところが、10・7以降のイスラエルでは、国会議員や軍人やメディア関係者や文化人のみならず、首相、国防大臣、大統領を筆頭とする政府要人までが、ジェノサイドの意図を容易に特定できるような発言を、それこそカジュアルに繰り返してきた。

赤尾光春

(あかお・みつはる)国立民族学博物館特任助教。ユダヤ文化研究。ウクライナ・ロシア・イスラエル地域研究。共編著に『シオニズムの解剖』(人文書院、2011年)『ウクライナ文化の挑戦』(幻戯書房、近刊)など。

2025年8月号(最新号)

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