歴史の破片をひろい集める【書評】『ガザ 欄外の声を求めて』

『地平』編集部
2024/11/05

 多少なりとも世界史を学んだことがある人なら、1956年にエジプトのナーセルがスエズ運河を国有化し、イギリスの反感を買い、フランスとイスラエルともどもエジプトの支配地域を攻撃した、いわゆる「スエズ動乱」を知っている。しかし、その「動乱」の陰で、今や誰もが知るところとなったガザ南部の町、ハーンユーニスとラファハにおいてイスラエルによるパレスチナ人虐殺が起こったことを知る人はほとんどいない。

 本書の原タイトルは、FOOTNOTES IN GAZA、直訳すれば「ガザの脚註」。つまり歴史「本文」に入ってはこないが「動乱」と同年に引き起こされた、最低でも386名にのぼる無差別殺戮が、どのように手が下され、どのように人々の記憶に刻まれ、そして紛れもなくあったことを指し示す、〝文末に付された〟漫画である。

 著者は、戦争をイラストで描き出す作家で、N・チョムスキーの著書に示唆を受け、02年からガザの地に入る。虐殺についての公式の記録は些少であり、頼りの証言も50年という歳月や出来事の衝撃さから、度々、不一致をみる。その歴史の「破片」は活字ではないがゆえに、いびつさそのままに過去が再構築される。

 「現在の出来事は過去に前身がある」(「まえがき」より)以上、〈10・7〉以降のガザにおける「本文」が今日の虐殺なら、「動乱」とそれに続く虐殺は無論、地続きで、私たちに読むべきものとして差し出されている。(工)

紹介した本
ガザ 欄外の声を求めて
著:ジョー・サッコ、訳:早尾貴紀、2024年10月、Type Slowly

『地平』編集部

『地平』は地球と平和を考える総合月刊誌です。毎月5日発売。

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