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60年代からブラジル音楽を牽引している巨匠、ジルベルト・ジルが「Aquele Abraço Japan Tour 2024」で16年ぶりに来日した。9月27日に、めぐろパーシモンホールで開催されたライヴを撮影。御年82歳である。ツアー・タイトルは、1969年初頭に獄中で作曲した曲〈Aquele Abraço〉に由来している。
ブラジルは、1964年に軍事クーデターが起こり、85年に民政移管されるまで軍事政権が続いた。なかでも、67年3月から69年10月まで政権を握っていたコスタ・エ・シルヴァ(Arthur da Costa e Silva)大統領の時代は民衆への弾圧がひときわ苛烈だった。68年3月28日、食品価格の値上がりに抗議する行動に参加していたエドソン・ルイス(Edson Luís)という学生がリオデジャネイロの軍警察に射殺された。これに対して、リオデジャネイロで大規模な抗議活動が行なわれて、デモ行進に10万人集まった。68年6月26日には、極左過激派、VPR(人民革命前衛グループ)がサンパウロの軍の施設で自動車爆弾を爆発させて兵士を殺害する事件が起こった。これらの動きに対して、68年12月13日、コスタ・エ・シルヴァはブラジルの軍事政権史上、最悪の法律と言われている軍政令第5条(AI‐5)を制定して、デモなど集会の禁止、政治犯に対する人身保護令の全面不適用、軍秘密警察による政治犯拷問などの暴力行為が容認されるようになった。
ジルベルト・ジルは、ブラジル北東部、バイーア州サルヴァドールで1942年に生まれた。ブラジルは南半球なので北に行くほど熱帯の雰囲気が顕わになってきて、独自のアフロ・ブラジル文化が息づいている。