【レバノン・イラン】ジェノサイドとエネルギー戦争の激化

黒木英充(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)
2026/10/06
2026年9月1日、イスラエルの攻撃を受けたレバノン南部の町アル・マンスーリー。爆撃によって家々から煙が立ち上っている。(Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ)

 日本では物価高騰や自然災害はあれど、いつも通りに社会が回っているように見える(2026年9月16日本稿執筆現在)。しかし中東の火薬庫の導火線はどんどん短くなり、ジェノサイドとエネルギー戦争が両輪となり、世界は危険な方向に転げ落ちようとしている。

膠着するエネルギー問題の深刻化

 6月17日の米イラン間「停戦」に関する14項目覚書以降、ペルシア湾地域とヨルダンの米軍基地を含めた範囲で両国の間の軍事攻撃の応酬が発生しつつも、どこか妙に弛緩した雰囲気が存在した。実際には米国とイラン共に時間とエネルギー事情を材料に相手に譲歩を迫る戦術を取ったため、危機は深刻化するばかりだった。米国はイランへの制裁・封鎖を強め、国民経済を破壊することにより白旗を上げるまで締めつけようとした。一方、イランはホルムズ海峡支配を確立し、覚書に基づいてオマーンと海峡管理の協議を続けながら、世界のエネルギー事情を危機に陥れているのは米国・イスラエルの国際法違反の戦争犯罪のためだと主張した。米国が最終的な攻撃を仕掛けてくれば、湾岸アラブ産油国とイスラエルのインフラ破壊が可能という戦力を示し、米国の根負けと妥協を期待したのである。

 しかし、この睨み合いは事態の解決をもたらすことがないまま危機を深刻化させた。そして9月に入って重大な動きが相次いで起こる。

9月の紅海危機

 9月10日、イエメンのフーシー派がバーブ・エルマンデブ海峡に近い港町モハ、および海峡中央に浮かぶマイユーン島を掌握した。以前から同海峡通過船舶への攻撃能力を主張していたが、紅海の南側出口の軍事的支配が可能となった。

 さらに同日から翌11日にかけて、サウジアラビアの紅海側石油輸出港ヤンブーにつながる東西パイプラインが、ドローン攻撃(イラク南東部発とされる)を受けて破壊され、石油輸送が停止した。ホルムズ海峡が閉鎖されたため、サウジアラビアは代替ルートとして日量400‐500万バレル程度の積み出しを細々と続けてきたが、不可能となった。日本の1日当たり平均消費量は300万バレルゆえ、ヤンブー港からの世界向け輸出量は日本一国の1日半分でしかなかった。それが途絶し、サウジアラビアは石油をほぼ輸出できない状態に陥った。日本の輸入は主に大西洋・インド洋ルートで米国に頼っているが、米国は自国の備蓄を消費して日本向け輸出を大幅削減。今や日本は1日の消費量1割分しか米国から輸入できていない。つまり毎日、相当分を国内備蓄の取り崩しに頼っていると見られ、底をつくのは時間の問題だ。火花は導火線を進んでいる。

9月の南レバノン危機

黒木英充

(くろき・ひでみつ)東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。1961年生まれ。東京大学教養学部卒、同大学院総合文化研究科修士課程修了。東アラブ近現代史。編著に『イスラーム信頼学へのいざない』『移民・難民のコネクティビティ』(ともに東京大学出版会)など。

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