採取という視座――現代資本主義の物質的基盤とはなにか

箱田 徹(神戸大学大学院准教授)
2026/08/15
Aerial view of a large industrial complex with multiple white warehouses under construction, cranes, and surrounding fields.
米オハイオ州の巨大データセンター

関連

・「中東と化石燃料資本主義――石油・軍国主義・世界秩序」アダム・ハニーヤ(ロンドン大学東洋アフリカ学院所長)
・「化石燃料時代に逆らうコロンビア」アンドレアス・マルム(ルンド大学人間生態学准教授)、マクシー・ゲズ(ジャーナリスト)

クラウドは物である

 窓がなく人の出入りもほとんどない巨大な箱状の建造物が、世界各地で急増している。データセンターである。生成AI、クラウドサービス、スマートデバイスがまとうデジタル、先端性、非物質性、クリーンといったイメージは、その物質的な土台を見えなくさせる。「クラウド」は雲のように空に浮かんではいない。その実体は、高性能半導体を搭載したサーバー群と、それらを稼働させる電力・冷却設備、海底ケーブルを含む通信網などの物理的インフラだ。そこで用いられる各種電子部品はもちろん、巨大蓄電池から電気自動車、携帯扇風機まで、様々な製品に搭載されるバッテリーも、リチウムのほか、方式に応じてニッケルやコバルト、マンガンなどの「重要鉱物」を必要とする。

 データセンターは採取主義の縮図だ。鉱物・水・電力といった物質を大量に取り込む一方、その上で稼働するプラットフォームは、私たちのさまざまな行動や交流をデータとして抽出・分析し、価値化の対象、すなわち「資源」に変える。物質と生活の双方のこうした取り込みが「採取」(extraction)であり、「採取‐採掘主義(extractivism)」(以下「採取主義」)とは、その論理と実践に依拠する体制を批判的に捉える視点である。本稿では、これら概念の来歴と射程を確認したうえで、各地の抵抗の動きと日本社会の課題を考えてみたい。

なにが「資源」にされるのか

 気候危機と、エネルギー・鉱物の争奪が引き起こす戦争は「文明」の問題と言える。ルイス・マンフォードは「古技術期」という表現で、石炭と蒸気機関を動力とする19世紀工業化を、単なる技術段階ではなく、煤煙、労働者の身体破壊、都市スラムを組織的に生産する文明の位相として批判した。その論理は今も続く。文明は、計算され、合理化され、合法化され、高度に組織された「野蛮」だ。

 鉱物資源の利用には、鉱床の測量、埋蔵量の算定、権益の法的確定、供給路の政治的・軍事的確保が必須だ。現代資本主義の下では、大規模な資源採取とその輸送・消費に経済・国家・社会の総体が依存し、あらゆるものを採取可能な資源として扱う価値化の論理に貫かれている。採取主義とはこの現状に対する批判的な介入の言葉である。

 鉱物の「採掘」、水や森林資源の「採取」、データや成分の「抽出」――こうした活動を一括して「採取」と呼ぶのは、それが資本が自ら作り出してはいない鉱物・水・生態系と、資本が必ずしも直接には組織していない社会的協働や人間の能力を「資源」として切り出し、所有権・インフラ・金融・アルゴリズムといった装置を通じて価値増殖の回路に接続するオペレーションであるからだ。泥も河川の水も行動データも、それらを計測し、区画し、権利関係の下に置き、収益の見込める投入物にして初めて「有用な」資源となる。採取主義とは、資本と国家の採取オペレーションを支え、それに依拠する体制のことである。

 この定義は「搾取」概念と重なりつつずれる。搾取を意味するドイツ語のAusbeutungには、鉱山から鉱物を取り出すという意味があった。マルクスも剰余価値の生産を剰余労働の「抽出」としばしば呼んでいる。近代産業の搾取では、資本は労働者を雇用し、労働時間と分業を直接組織する。これに対し、採取オペレーションでは、そうした直接の組織化を経ずに、地質学的な時間が作った鉱床、流域の水、人びとの営みに資本が取りつき価値を引き出すのだ。

 とはいえ、採取が搾取と無関係な、資本の完全な「外部」で行なわれるわけではない。SNSでの交流はプラットフォームのアルゴリズムに方向づけられ、民衆経済は高度化された金融システムを通じて債務に絡め取られる。債務は、賃金契約を介さず、返済のための将来の労働への請求権として機能する(たとえば住宅ローン)。鉱山や農園では、自然からの採取、労働者の搾取、住民からの土地の剥奪が同時に進行する。採取と搾取は相補うようにして、私たちの日常生活を侵食し、生活を生きがたいものにし、資本主義の持続不可能性を高めているのである。

ラテンアメリカから世界へ

箱田 徹

神戸大学大学院准教授。博士(学術)。専門は、社会思想史、現代社会論。著書に、『ミシェル・フーコー──権力の言いなりにならない生き方』(講談社現代新書)、訳書に、クリスティン・ロス『コミューン形態』(月曜社)など。

2026年9月号(最新号)

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