【連載】再生可能エネルギーの底力(第3回)一次産業あってのバイオマス発電

まさのあつこ(ジャーナリスト。博士(工学))
2026/09/02
長野森林資源利用事業協同組合の宮澤薫専務理事(右)。2026年6月15日、施業現場で筆者撮影。

 バイオマス活用推進基本法で、バイオマスとは「動植物に由来する有機物である資源」であり、化石燃料を除いたものだと定義されている。「廃物系」「未利用系」「生物系」と3つに大別されるが、今回はその中から、林業と酪農の現場で生まれたバイオマス発電の挑戦を紹介したい。

林業あっての「いいづなお山の発電所」

 長野駅から車で30分。飯綱高原や戸隠神社へとつづく観光道路「戸隠バードライン」の途上に、木質バイオマスで発電を行なう「いいづなお山の発電所」(長野県長野市)は見えてくる。

いいづなお山の発電所。2026年6月15日、筆者撮影。

 発電所の中核である宮澤木材産業の創業は1950年。「もともとは炭焼きをこの地で営んでいたと聞いています」と教えてくれたのは、同敷地内で発電所を運営する長野森林資源利用事業協同組合の専務理事、宮澤薫さんだ。

 1960年代には主に北海道・東北地方で、1970年代には長野に戻って山林で素材生産(伐採、搬出など)を開始した。1984年に株式会社化し、現在では、山林経営から素材生産、製材、チップ加工、木質廃棄物処理、バイオマス発電、電力小売事業まで、グループ会社で、いわゆる川上から川下までを一貫して手掛けている。

 2005年にバイオマス発電を始めたきっかけは、施業で発生する未利用材に加え、廃木材や端材等の地域内での有効活用が課題となっていたことだったと宮澤さん。当時はまだ「木質バイオマス発電所」という言葉も概念も知られていない。地域と一体となって事業を進めるため、地域の7社で組合を設立。「最初は、どうオペレーションすればいいのかも分からず、発電所運営の経験者に所長になっていただき、管理プロセスや巡視のポイントを教えてもらった」ところからのスタートだったという。

 福島第一原発事故の翌2012年に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置(FIT)法」が施行。当初は別の制度を活用し、2013年にFITに切り替えたが、買取期間が終了。現在は、連載2回目にも登場した「生活クラブエナジー」との直接契約で、年間最大1万1000MWhを売電している。

 第1発電所の経験と知見を活かして、同2013年には、第2発電所をFITで運転開始。長野市役所や市内の銀行など15法人に売電している。第1、第2発電所とも、燃料材の投入により1日24時間稼働。年間発電量(最大2万4000MWh)は、一般家庭6000世帯分に相当する。2つの発電所は、長野県内における木質バイオマス発電所の第1号と第2号だ。

長野森林資源利用事業協同組合の宮澤薫専務理事(右)。2026年6月15日、施業現場で筆者撮影。

半径30キロで燃料調達、地域で消費

 取材当日、宮澤さんが案内してくれたのは、カラマツが立ち並ぶ山林だった。そこで行なわれていたのは「列状間伐」だ。森林を面で捉えて、3メートル幅の列に立っている木は伐る。次の列は6メートル幅で伐らない。次の3メートルは伐ることを繰り返すのが列状間伐だ。

 この日は6人1チームで作業。2人が作業道を開け、続く3人が伐採し、最後の一人が後を追って丸太を長さ4メートルに切り揃えて積んでいく。4メートル以下の残材や曲がり材が燃料材として発電所に運ばれる。

 現在、自社で行なう素材生産に加え、主に半径30キロ圏内から原木や廃木材等を受け入れている。敷地内には、用材、燃料材、廃木材が整然と分類されている。思わず「美しいですね」と言うと、「車で通る観光客が見ても嫌な気持ちにならないよう、整理整頓は徹底しています」と答えが返ってきて、これが意識して整えられた美しさなのだと気付かされた。「発電所の外壁も景観を損なわないよう定期的に塗り替えているんですよ」と宮澤さん。地域を思いやる木質バイオマス発電所なのである。

 日本の木材自給率は戦後10割から、2002年には2割以下に落ち込み、森林・林業および国産材利用政策に伴い、2024年までに4割超まで盛り返してきた。

 2010年のバイオマス活用推進基本計画には、林業にともなって発生する林地残材800万トンは「ほとんど未利用」とされていたが、2023年度に発生量は1131万トンに、利用率は40%に増えた。ちなみに廃木材利用率は当初から9割超だ。

 国産材供給量の推移を用途別に見ると、四半世紀の間に、製材用材やパルプ・チップは微増だが、燃料材はほぼゼロから3割を占めるようになった。林野庁木材利用課は、木質バイオマス発電所の増加で、燃料材の利用が増加したと分析している。FIT法は国内林産業のありようにも影響を与えたと言えそうだ。

家畜排せつ物利用の「阿寒マイクログリッド」

 次に訪れたバイオマス発電の現場は、乳牛の排せつ物を利用した株式会社阿寒マイクログリッド(北海道釧路市阿寒町、代表取締役:小峯充史)だ。

 「マイクログリッド」と聞けば、一定の地域で、自前の発電と送電網で電力を利用する空間を思い浮かべる。が、2018年補正予算から経産省が始めた「地域マイクログリッド」事業は、平常時は既存の送電線を利用、災害時だけ一定地域を遮断する仕組みだ。自営線を敷設する初期コストを抑えるという考え方で始まった。

 いったいどのようなものなのか。現地で話を聞いた。

阿寒マイクログリッドの発酵槽。施業現場で筆者撮影。

 釧路空港から車で30分。阿寒湖方面に向かう酪農地域で、搾乳機や給餌機械を導入したスマート農業をすすめる乳牛牧場「天翔阿寒」(以後、天翔)の周辺約25キロ平方メートルに構築されたのが、阿寒マイクログリッドだ。

 北海道電力ネットワーク株式会社(以後、北電)の送電線17・8キロを災害時には遮断した上で利用して、天翔内に設置したバイオガス発電と太陽光発電で蓄えた蓄電池から、民家25軒、酪農施設14軒、釧路市の指定避難所である徹別(てしべつ)多目的センターに電力を供給する。

 天翔で出迎えてくれたのは、株式会社ノースキャトルの田中義幸さんだ。田中さんは、長年、阿寒農業協同組合(JA阿寒)に勤務し、地域の酪農家を支援した。牛乳を生産する天翔はJA出資の株式会社、黒毛和牛を生産するノースキャトルは農研機構の補助金を活用した株式会社だが、田中さんは両社の設立に尽力した。JA退職後は、阿寒マイクログリッドを構想し、機械全般の面倒を見ている。

 「うちのJA管内には市街地寄りの地域に、以前から家畜の糞尿処理問題がありました。複数の農家が共同で集中処理センターを作り、糞尿で堆肥化を試みましたが、良い堆肥ができず、メンテナンス費がかさみました。そこで、バイオガス発電所による売電収入で、農家の負担を下げた事例がありました。天翔ができた時に、将来的にはここもバイオガス発電をと思ってはいました」という。

 天翔設立後の2018年9月に起きたのが、北海道胆振東部地震(震度7)だ。震源から約20キロ離れた苫東厚真火力発電所が緊急停止し、道内全域が停電した。

 「天翔には自家発電機がありましたが、近隣の農家は最大3日停電し、搾った牛乳は冷蔵できず廃棄、搾乳もできず、換気ファンも回らない。まだ暑い時期でした。乳房炎など牛体異変で死んだ牛も結構いました。安心して営農できるシステムができないだろうかと考えていた。ちょうどその時、マイクログリッド事業を国が始めました」と田中さん。それが先述した経産省の補助事業だ。

 「1年の調査で、マイクログリッドが構築できるか、採算が取れるかを検証する事業ですが、お手伝いをいただいたのが小峯さんです。以前、JAが別の場所で太陽光発電所を作った際、施工業者に誰かご存じないかと紹介してもらった」と田中さん。

 「小峯さん」とは、田中さんに頼まれ、1年の調査を経て、阿寒マイクログリッドを実現させた株式会社エコロミ(東京千代田区)の小峯充史代表取締役だ。

 「この業界に足を踏み入れたのは、東日本大震災後です」という。当時は保険会社に勤めながら、休日に小学生向けのボランティア活動を地域で行なっていた。

 「たとえば『宮崎産とメキシコ産のマンゴーを比べたら、宮崎産のほうが高いけど、移動距離が長いほど運送に燃料を使うから、地球に優しいのはどっちかな』みたいな話をしていた」という。環境教育だ。

 「もともといつか起業はしたいと考えていました。震災後、長野県飯田市で市民出資の太陽光発電を始めた会社があると知って、俺もやってみよう」と準備を始め、2012年7月にエコロミを設立した。FIT法の施行年だ。

 「時代の後押しですね。電力会社が一定期間、固定価格で買い取ってくれる。それなら、地域のためになることをやろうと、最初は、住んでいた調布市の公共施設の屋根を借りて、太陽光発電から始めました。もとは群馬の農家出身です。高齢化した地域では農家の担い手がいない。太陽光発電に使ってもらったらうれしい地権者はいる。でも、賃料を払って、こちらに利益が上がるだけでなく、農地を貸してくれた人の家族にも喜んでもらいたい。そんなお手伝いをしているうちに、原発事故で被災し、放射性物質で使えなくなった福島県富岡町の畑で発電事業をやってもらえませんかと誘われた。そこで下請けに入った業者から相談されて会ったのが田中さんでした」(小峯さん)。

 二人は、こうしてつながった。構築された阿寒マイクログリッドの総事業費は約10億円。経産省から約4億8000万円、北海道庁から約5000万円の補助を受け、残る約4億円は、エコロミや生活クラブエナジー、関係事業者などの融資により成立させた。天翔が支払う電気料金と、FIT制度による買取り、生活クラブエナジーへの売電が収入源で、現在は投資回収の途上だ。

 天翔には巨大な畜舎二つに乳牛約420頭、育成牛約300頭の計約700頭がいて、毎日70~80トンの糞尿が発生する。それが地下配管を通じて地下貯留槽に送られ、使用済みの敷き藁も投入して攪拌される。

 攪拌された糞尿は、ポンプで、ドーム状の発酵槽(容量1000トンと2000トンの2基、地下約3メートル)に送られ、40℃まで加温・攪拌され、ガスを発生させる。

 大きいほうの発酵槽からは天翔が使う自家消費電力用(災害時のマイクログリッド用)の発電機(166kW)へ、小さい発酵槽からはFIT用の発電機(49kW)にガスが送られ、それぞれのエンジンを回す。排熱は発酵槽の加温の他、冬季に牛の飲み水を適温まで温めることにも活用される。冷水を飲ませるより乳量が上がるのだ。

 さて、FIT用にあてがわれた北電の送電能力(系統容量)には上限があり、阿寒マイクログリッドでは49kW以上は売電できない。自家消費電力用も本来24時間発電が可能だが、1日6~8時間程度の稼働に制限されている。蓄電池がいっぱいに充電されると、発電機が止まる設定になっている。発電機が止まっている間にも発生する余剰ガスは、なんと煙突で燃焼させて大気中に放出しているというから、もったいない。余剰ガスの販売も阿寒マイクログリッドで検討していると、田中さんは語る。

 発酵後の副産物(消化液)は固液分離器にかけ、液肥は貯留槽に貯めて近隣の牧草地に還元する。悪臭のもとであるアンモニアが抜けるので、全く匂わない。固形分は、当初は飼料としての活用を試みたが、水分を70%程度までしか下げられず、雑菌繁殖による乳房炎などのリスクがあるため半年ほどで断念したという。

 現在は、ペレット化して肥料として販売できないか、近隣農家と協議し、試作も行ない、事業化を検討中だ。「輸入肥料は毎年値上がりしています。自家生産の肥料ができればいいですね」と田中さん。

 点検は年1回、プラントを組み立てた業者や蓄電池の代理店が行なう。ガス中に発生する硫化水素で配管やエンジン内部が腐食しないよう、発酵層と発電機の間に脱硫槽を設置し、硫化水素を吸着させる鉄粉を3カ月に1回、取り替える。1回で約100万円もかかる。

 糞尿以外の異物によるポンプ詰まりは、その都度対応。1日、2日放置すればガスの発生に影響するからだ。異常があれば遠隔で確認はできるが、各施設の動作確認は日々、欠かさない。田中さんは「機械ですから当たり前」と苦労を顔に出さない。

 余剰ガス、液肥、固形肥料の事業化など、早期の投資回収を目指して、試行錯誤は続く。

阿寒マイクログリッドの小峯充史代表取締役。筆者撮影。

災害時のマイクログリッドの課題

 経産省のマイクログリッド(以後、MG)事業は、2023年度までに48件の計画が検討された。実現したのは8事業。バイオマスはそのうち1件のみだ。

 経産省新エネルギーシステム課は、「1年の計画策定段階で補助金を受けても事業性が難しいと判断したところは、構築事業まで至ってない」と述べる。同省が2021年にまとめた「地域MG構築のてびき」でも、事業を検討した事業者から「既存配電線を活用すれば初期投資は抑えられるが」「収益化が予見できない」などの課題に加え、災害時の「復旧優先順位は送配電事業者が全体最適で検討するため、MGを優先して発動させられない」旨が記載されていた。

 実際はどうか。小峯さんに尋ねると、次のように具体的に教えてくれた。

 「送配電線は北電の所有物で、災害時といえども私たちは管理できません。いざ地震が起きて停電になり、MGを運用しましょうとなっても、MG内の電線に異常がないかを北電が点検に来て、異常がないと確認できてからでないと使えません。でもそんな時こそ、地震や大雨や大雪で直さないといけない施設がたくさんあるでしょう。作業員も限られる中、本当に来てくれるのかは微妙です」と言うのだ。

 また、電力需給を調整する北電の中央給電指令所のシステムに、MG用の仕組みを組み込むのは難しく、災害時の連絡は電話で行なうことになっている。幸い、阿寒マイクログリッドができてから3年間は、MG発動が必要になる災害は発生していない。年1回の動作試験は行なわれている。

 「送電網の末端だから買い取るかという話は北電からありましたが(価格が)高いんです。設備老朽化の問題もありますし、断念しました」(小峯さん)。

 経産省の補助事業は終了し、今年度からは環境省でも進めていた平常から活用するマイクログリッド事業に統合された。環境省の地域脱炭素政策調整担当参事官室によれば、「脱炭素先行地域」のモデル事業として10カ所でマイクログリッド事業を実施中だ。札幌市、つくば市、小諸市などでバイオマス発電の活用もある。一方で経産省から統合された事業は、「災害時のMG発動時については送配電事業者との調整が必要だ」と認識しており、「(仕組みの)設計はこれからだ」と述べる。

送電線容量の課題

 今回、取り上げたバイオマス発電は二事例に過ぎないが、後者では、本来24時間発電できる能力が、送電線の容量によって制約されてしまう課題が見えた。これは、次のような全国共通の課題にも通じる。

・送電線2回線のうち1回線は片方が故障した時の予備として空けておく「N─1電制」ルールがあり、せっかく存在している送電線が最大限活用されていない。

・発電所ができた順で送電線を使う「先着優先ルール」が存在し、新参者の再エネには不利だ。

・「優先給電ルール」によって原子力のフル稼働が最後まで守られる一方で、再エネは出力抑制を受ける。

 エネルギー基本計画で、再エネの主力電源化が目指される中、経産省の電力広域的運営推進機関は、2023年に、送電網の制約をどう改善するかを「広域系統長期方針」にまとめた。同方針には(1)既存の送電線の最大限活用、(2)送電容量の拡張、(3)再エネ適地から大消費地に送電ロスが少ない高圧直流送電を行なうことによる送電網増強が、解決策として提示された。

 国民負担が少ない(1)をまず進めるとして、①実際の利用率に近い想定で空き容量を算定し直す、②故障時には発電を止めることを条件にもう1回線も活用する、③発電量が需要よりも多い混雑時には損失補償なしに出力抑制することを条件に接続(ノンファーム型接続)するとした。

 実際に起きているのは、既存のルールが積み重なった結果、平時も混雑時も再エネに制約が起きる問題だ。③が混雑時の解決策として示されたのはおかしな逆転現象だ。

 送電網の制約問題は、エネルギーと食の安全保障、そして地域産業を守る観点からも、第一次産業の視点を入れて再考されて欲しい。そう考えさせられる取材となった。(つづく)

まさのあつこ

ジャーナリスト。博士(工学)。JBpressで「川から考える日本」を連載中。著書に『あなたの隣の放射能汚染ゴミ』(集英社新書)、『四大公害病』(中公新書)ほか。

2026年9月号(最新号)

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